(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢者にとっての「居場所」としての病院
「病院に行くのが日課です」と話す和子さんのように、日常的に医療機関を訪れる高齢者は少なくありません。
総務省『社会生活基本調査(2021年)』によると、75歳以上の高齢者のうち、1日に通院・通所を行った人の割合は18.7%にのぼります。これは、およそ5~6人に1人が日常的に医療機関を訪れている計算です。70~74歳でも12.3%と、かなりの割合を占めており、通院は高齢者にとって生活の一部となっていることがうかがえます。
和子さんのように、「通院」を通して社会とつながろうとする高齢者は少なくありません。特に都市部では、隣近所との付き合いが希薄になり、地域との接点が持ちにくいケースが目立ちます。
「本当は、病院以外にも行ける場所があるといいんですけどね。でも、今の生活では、そんな余裕もないし、きっかけもないんですよ」
和子さんがそう語るように、現在の制度や社会の仕組みでは、高齢者が自然とつながれるような「居場所」は十分とはいえません。一部の自治体では、地域包括支援センターを拠点に高齢者サロンや見守りサービスが提供されていますが、情報が行き届いていない、あるいは「知らない人と関わるのが不安」といった心理的なハードルも存在します。
病院に通っているというと、「どこか悪いのでは?」と心配されがちですが、和子さんの場合、通院は「健康の維持」と同時に、「社会とのつながり」を保つための大切な習慣でもあります。その背景には、年金だけでは十分に成り立たない生活と、社会的な孤立への不安が複雑に絡んでいます。元気そうに見える人の笑顔の裏には、見過ごされがちな現実があるようです。高齢化が進む今、私たち一人ひとりが「つながり」をどうつくるか、社会全体としてどのような支援の形があるべきかが、より強く問われています。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年 国民生活基礎調査』
警察庁『令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について』
総務省『令和3年 社会生活基本調査』