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穏やかな老後…楽しみにしていた初孫の誕生
60歳で定年を迎えたのち、再雇用で契約社員として働いてきた森田浩さん(仮名・65歳)。会社のために身を粉にして働いてきたサラリーマン人生は、43年で幕を閉じました。現在、受け取っている年金は月21万円。定年時に受け取った退職金2,400万円には、1円も手を付けていません。コツコツと続けてきた貯蓄もあります。この先、夫婦で生きていくのに、経済的な心配は一切ありませんでした。
「これからは夫婦で旅行を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごしたい」。そう考え、第二の人生の計画を立てていました。仕事に追われた現役時代とは異なり、ゴルフや読書、温泉巡りなど、趣味を楽しむ時間が十分すぎるほどあります。
そんな幸せな老後のなかで、もうひとつ楽しみにしていたことがありました。長男の拓也さん(仮名・35歳)は結婚5年目を迎え、夫婦仲良く暮らしている様子。次男、三男はまだ結婚は先のようだったので、初孫への期待は拓也さんに寄せられていました。「孫はまだか?」「そろそろいい知らせが聞きたい」などと、可愛い孫の顔が見たいと、期待を膨らませていたのです。
そんなある日、拓也さんから電話がかかってきました。「お父さん、ちょっと真剣な話があるんだけど……」と、いつもと違う沈んだ声に、浩さんは戸惑いました。「実は…妻が精神的に参ってしまって、病院に通っているんだ」と、思わぬ言葉に息をのみます。話を聞いていくと、実は長男夫婦は不妊治療をしているものの難航。そのうえ、初孫を楽しみにしている浩さんら親たちの期待がプレッシャーとなり、精神的に参ってしまったということでした。
「結婚して5年経つけれど、なかなか子どもを授かれなくて。自然に任せていては難しいことがわかったので、治療を続けていたんだけど」
浩さんは、これまでの自身の言動を振り返りました。孫の話をすることが多く、それが息子夫婦にとってどれほどの重圧になっていたのかを、まったく考えたことがなかったのです。
「すまない、そんな事情も知らずに」