同居からわずか3ヵ月後、懺悔した理由
いよいよ新居で母との同居生活が始まります。母は新生活に刺激があったのか、顔が明るく元気な様子でした。近所の商店街に歩いて行ったことなどを嬉しそうに正美さんに話していました。
しかし、次第に様子が変わっていきます。引っ越しから3週間が過ぎたころ、母は夜に眠れなくなってしまいました。夜中にリビングのソファに腰かけ、正美さんが声をかけても上の空。そしてこんなことをいいました。
「お父さんを呼んできて、正美、お父さんにも残しておいたからみんなで食べよう」
亡くなった父のことをいっているようです。はじめは夜中なので寝ぼけているのかと思ったのですが、状態はどんどん悪化。夜になると激しく興奮するのです。大声をあげたり泣きだしたり……。「お父さんが帰ってきたのに夕飯の支度ができてない」「正美が学校で仲間外れにされた」などといい、正美さんも困惑。母をなんとか抑え込もうとつい大声を出してしまい、ぶつかり合います。せん妄は数日で収まりますが、何度も繰り返してしまいます。
そんな様子を目の当たりにした正美さんの息子たちは怯えるように。引っ越しからわずか3ヵ月後、日中に母を家に1人で置くことができる状態ではなくなりました。職場の産業医に相談してみると、「環境の変化で認知症が進行しているのかもしれない。地域包括支援センターに一度相談してみたほうがよい。近い将来、介護施設への入居も検討すべき」とのこと。正美さんは愕然とします。
母を介護付き有料老人ホームへ
軽度の認知症を発症していた母を移住させたことで、母の健康を損なう原因を作ってしまいました。母のために仕事をたびたび休むわけにもいかず、八方ふさがりに。結局、家族への負担も考え、母を介護付き有料老人ホームへ入居させることにしました。月額費用は18万円、一時金に320万円かかります。母の年金で賄いきれない分は貯蓄を取り崩すことに。あまり考えたくないことですが、何歳まで生きるかわからないなか、資金面で不安を感じます。なにより、母自身のことを思うと悔やんでも悔やみきれません。
夫にも申し訳ない気持ちでいっぱいです。母との同居がなければ、予算内で職場に近い家を購入できたかもしれません。家が完成してからたった3ヵ月で使用しない部屋とキッチンが残されてしまい、大きな無駄となりました。無謀な計画だったと自分を責めるばかりの正美さん。夫は「お母さんを想う気持ちからやったことだから、結果はどうあれ仕方がないことだよ」といってくれますが、正美さんは胸が詰まって仕方ありません。