③ 医療と社会の関係(現在・未来)
「医療と社会の関係」も志望理由書の中では重要な位置を占めます。特に、大学に志望理由書を提出する場合は「医師として社会に貢献する」ということを必ず具体的に書いてください。
医師を目指している受験生が、自分のことだけを考えていてはいけません。現在や未来の社会に対する広い視野を持ち、自分のためだけでなく社会に貢献したいという使命感を持っていてほしいと思います。それは面接試験でも強いアピールになりますし、自分が将来、世の中の役に立てるということは強いモチベーションになります。
ですから、現在や未来の社会の中で、「医師や医療の役割が高まっている」という社会的背景や医師の社会的役割についての考えを深めておくことも大切です。社会的背景の例としては、「現代社会が超高齢社会になっていること」や「医師の地域偏在や診療科偏在による地域医療の空洞化」、「新型コロナウイルスが浮き彫りにした医療の課題」、「iPS細胞により新たな再生医療の実現が期待されていること」、「AIやICT、ロボット技術などの医療への活用が進んでいること」などが挙げられます。
例えば超高齢社会が進むと、生活習慣病、慢性病、慢性期疾患を抱えた高齢者の数がますます増えていくことになります。
こういった超高齢社会の問題を解決するため、厚生労働省が地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいることなども、医療と社会のかかわりを考える1つのきっかけになります。現代社会の背景として、私たちの社会が超高齢社会になっているという認識もとても重要なのです。
「患者さんの病気を治すのが医師の仕事」と考えている受験生もいますが、超高齢社会では治らない病気を抱えた多くの高齢者と患者─医師関係が続くことになります。また、地域医療にかかわろうと考えた場合、医師偏在に伴う地域医療の空洞化についても考えを広げておいてほしいと思います。
1つの例です。日頃から医療に関するニュースには興味・関心を持ってアンテナを張っていてほしいですし、それらの問題について、自分は将来どう貢献できるのかも考え、それを明文化することが大切です。
④医師としての適性
次に、「現在の自分」について考えます。将来、理想の医師になるために、すでに自分に備わっていると思える資質(コミュニケーション能力、リーダーシップ、倫理観、生命を大切にする思い、社会性、協調性など)があれば、いくつか挙げてみましょう。そのうえで、次は「過去の自分」を考えます。これらの資質を自分が備えていると言えるような経験をしているのであれば、それを具体的にし、積極的にアピールしてください。
例えば、学校でリーダーシップを発揮した経験や、ボランティアとして社会のために奉仕した経験、部活動でいろいろな人の考えを尊重しながらチームの意見をまとめた経験、生命の大切さを実感することになった経験、人の役に立つことに大きな喜びを感じた経験など、医師として必要な考え方や人間性の素地として自分が経験的に身につけていることを具体的に書き出して整理してみましょう。
そういったことが、すでにたくさん備わっているのであれば、あなたは医師になるべき人だと言えます。あなたが医師になることが必然だと考えれば、自信を持って受験勉強に臨めますし、面接試験でもうまくアピールできるはずです。
⑤大学卒業後の希望
最後に、大学卒業後の進路を考えてみます。大学を卒業してもすぐにあなたの理想とする医師になれるわけではありません。医師としての経験が少ないままでは、まだ理想の医師には程遠い状態でしょう。
あなたが考える理想の医師になるために、卒業後にどこで、どんな働き方をしたいのか、その経験で何を身につけるのかも考えてみてください。医師としての知識も技能も考え方も、すべては経験によって磨かれていくはずです。それに加えて、医学・医療は常に進歩し、新しい診断法・治療法が次々に出てきている現代では、理想の医師として働き続けるためには卒業後も学び続ける必要があります。
藤田医科大学のホームページに記載されている、「総合型選抜」に出願する際に提出する書類の記入例を下記に載せています。大学卒業後15年後の目標から逆算して、大学入学後の大学生活や、卒業後に医師・研究者としてどのような経験を積んでいくのかというビジョン例が書かれています。このように、大学に入ってからのビジョンを明確にすることは、理想の将来を手に入れるための第一歩になりますし、高いモチベーションにもなるはずです。
さて、いずれにしても、医師になるためには、まず、医学部に合格しなければなりません。医療の現状・現場や抱えている問題、社会から求められている医療や医師像を理解し、そこに自らの理想を重ね合わせ、目指す医師像を明確にすることが医学部合格への第一歩であり、医師への第一歩でもあります。強い信念を持って医学部を目指せるよう、しっかり自分と向き合い、考えを深めてください。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括

