面接試験では何を見ているの?
医学部での面接試験は大学ごとに多様で、中には医学部とはまったく関係ないようなテーマについて考えさせたり、質問が飛んできたりすることがあります。しかし、こういった面接試験の質問を面接対策のプロ講師に評価してもらうと、「医学部の面接試験として適切なものですね」という回答がよく返ってきます。
受験生と面接の話をしていると、「こういう質問をされたらどう答えたら良いですか?」などと模範解答を尋ねられることもよくあります。しかし、模範的な解答を準備して答えたとしても、そこで面接は終わりません。自分が答えた内容についてさらに掘り下げた内容の質問が続きます。ですから、表面的な対策・準備だけでは今の面接試験は太刀打ちできません。面接試験の本質「面接試験で何を見ようとしているのか?」を十分理解していないと、正しい準備はできないでしょう。
では、面接試験では(小論文試験も含めてですが)何を見ているのでしょうか。
それは、「医療現場に立つ『自覚』と『資質』」です。
Step1でもお伝えした通り、医学部入試は医師・研究者としての就職試験の一面もあります。医学部に合格したら将来はほぼ医師、または研究者になるからです。医学部の受験会場に来ているということは、「将来、医療現場に立つ」という覚悟ができている状態になっているはずです。「患者さんがいる医療現場」のイメージをしっかり持っていなくてはいけません。
また、医師や研究者を目指すための資質として何が必要なのか、については、各大学が公表しているアドミッション・ポリシー(入学者の受入方針)に明記されています。志望大学のアドミッション・ポリシーは手元に置き、いつでも見られるようにして、医師・研究者としての資質を常に意識してほしいと思います。
面接・小論文試験を行う理由は?
例えば九州大学医学部医学科のアドミッション・ポリシーにはこのように書いてあります。
「最も大切なことは弱い立場の患者さんの味方となり、病気に苦しんでいる患者さんを助けることである。単に受験学力が高いから医学部に入学するのではなく…(中略)…明確な目的意識をもった学生を望んでいる。…」と書かれている通り、皆さんが目指す医学部の向こうには「患者さん」がいる医療現場があるのです。ですから、医療現場のイメージをしっかり持つことが面接対策としても必要になります。
患者さんは病気やケガなどで体の調子が悪く、つらい状態です。そのうえ、医学・医療の知識がないため、その原因やこの先どうなるのかなど、全くわかりません。精神的にとても不安になっている患者さんもいます。それゆえ、医学・医療のプロである医師に「相談したい」と思って、患者さんは医師の元に訪れるのです。
良い医療現場にするためには、患者さんと医師の間に「信頼関係」が必須です。患者さんは自分の健康、ひいては自分の命を医師に預けることになります。自分の命を信頼できない人に預けることは、誰しも怖いことです。ですから、患者さんの健康と命を預かる医師は、患者さんとの間に信頼関係を構築できるようなコミュニケーションが必要になります。
では、患者さんに信頼されるコミュニケーションとはどんなものでしょうか。まず、
①患者さんの話をしっかり聞く
ことから始まります。患者さんは医師に「相談したい」と思って訪ねてきています。そのため患者さんが不安に思っていること、知りたいと思っていることを、医師はすべて受け止めることが大切です。そうすることで、医師に対する信頼感が患者さんに芽生えます。
さらに、
②患者さんにわかりやすく説明する
ことも大切です。医師は、患者さんが相談したいことを受け止めたうえで、「医学・医療のプロ」として正しく診察・診断することはもちろん、診断結果や治療について、「医学・医療の素人」である患者さんの立場に立ってわかりやすく説明することが必要です。そうすることで、患者さんは医師が自分のことをよく理解してくれていると感じ、より信頼感が増すことになります。
医学部の先生方は、医学部は理系+文系であるというようなことをよく言います。医学は科学ですから医学的・科学的な理解力、理系的な力はもちろん必要です。しかし、患者さんという感情を持った「人」を診る仕事でもあります。ですから、患者さんの気持ちに対する「想像力」「共感力」といった能力、文系的な部分がとても大切になります。こういった、「想像力」「共感力」を見るのも面接試験の目的の1つになります。
医学部を目指す受験生の中には、医療現場の主人公が「医師」であると思っている人もいます。確かに医療を扱うドラマのほとんどは、医師が主人公になっているのでそう勘違いしてしまうのも無理はありません。しかし、「いのち」「健康」は患者さん一人ひとりのものですから、患者さん一人ひとりが主人公であるはずです。医療の主体は患者さんであるべきなのです。
面接試験の受け答えのカギとなる現代医療についての大事な考え方のポイントは、
ということになります。
繰り返しになりますが、医療で扱う「健康」「いのち」は患者さんのものですから、患者さんが医療の主体であり、患者さんには基本的人権としての自己決定権があり、医師はそれを尊重しなくてはならない立場なのです。医学部を目指す受験生であれば、この基本的な考えは必ず持っていてほしいものです。
また、現代では昔に比べ「いのち」を永らえるすべが発達してきました。しかし、それは同時に健康ではない状態で長く生きる人々を医師は診続けることにもなります。こういった患者さんと「医師―患者」の関係を長く続けることが、超高齢社会の日本では特に大きな意味を持ってくることになります。「いのち」の終わり、「いのち」の質、「いのち」の優先順位など、医療現場では「いのち」について重い決断をすることも多くなります。受験生である今から、重く、深く考える必要はありませんが、「将来、医療現場で命を預かる自覚」をしっかり持っておいてほしいと思います。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括

