物理の応用力とは、「問題に与えられた条件を読み取って、正しく公式や法則を活用する力」と言えます。これらを、力学分野を例に挙げながら説明していきます。
Step1 条件から発想のカギを見つける
まずは、問題を解くためには、その際に用いる公式や法則を正しく選択する必要があります。そのためには、問題に与えられた条件から、どの公式・法則を用いるかという「発想のカギを見つける」ことを意識しながら、問題に取り組まなければなりません。
公式・法則を選択する際の着眼点について例を挙げると、物体が運動している問題で、運動中のある時点のみ(1点)に着目した設問であれば、「運動方程式」を用います。一方で、運動中のある時点と別のある時点(2点)に着目した設問であれば、「力学的エネルギー保存則」や「運動量保存則」を用います。
また、後者はさらに、重力、弾性力などの保存力以外に力が働いていないか、働いていてもその力がする仕事が0の場合には「力学的エネルギー保存則」を、注目している物体系で内力を及ぼし合っただけで外力を受けていない場合には、「運動量保存則」を用います。
一見すると問題によって与えられた条件はまったく異なるため、完全に別のアプローチが必要と思いがちですが、今回の例のように時間軸や働いている力を基に、用いる公式・法則を選択できます。物理の応用力を身につけるためには、このような問題ごとの着目すべきポイントを見つけ出し、それらを「発想のカギ」として活用できるようにしていくことが肝心です。
Step2 解法のセオリーを押さえる
用いる公式や法則を特定できたら、次はそれらを基に立式を考えます。この立式の方針にも必ず決まった型、つまりセオリーがあります。
例えば、物体が静止しているつり合いの問題では、「水平方向のつり合いの式」、「鉛直方向のつり合いの式」、「モーメントのつり合いの式」の3つを考えます。注意したいのは、問題によっては解説に2つの式しか書いてない場合があることです。これは、問題を解くための方程式として活用できないために記載を省略しているだけで、実際にはちゃんと3つあります。
また、斜面上に静止している物体に関する問題の場合、式を簡潔にするために、水平のかわりに「斜面に平行な方向のつり合いの式」を、鉛直のかわりに「斜面に垂直な方向のつり合いの式」を立てる場合があります。
このように、多少のアレンジが入ることはあるものの、必ず3つの式を考えるということが、つり合いの問題に関する解法のセオリーです。それぞれの公式・法則を用いる際の「解法のセオリー」をしっかりと押さえましょう。
Step3 良質な問題を繰り返し解く
ここまでにお伝えした条件から発想のカギを見つける力や解法のセオリーを押さえる力を、問題演習の際には常に意識してください。また、易しめの問題から標準レベルの問題、そして発展的な問題へと徐々に難度を上げながら、同一単元について繰り返し取り組むことが重要です。
最初は『セミナー物理基礎+物理』(第一学習社)の「基本例題」「基本問題」や『物理のエッセンス』(河合出版)、『らくらくマスター物理基礎・物理』(河合出版)などの問題集が良いでしょう。その後、『セミナー物理基礎+物理』の「発展例題」「発展問題」や『良問の風 物理』(河合出版)などを用いることにより応用力が身につきます。余力のある人、医学部の中でも旧帝大を始めとした難関大や難度の高い出題傾向の大学を目指している人であれば、『名問の森 物理』(河合出版)や『実戦 物理重要問題集』(数研出版)まで取り組むことで、さらに高い学力を身につけることが可能です。
実は、医学部入試の物理では、ごく一部の大学を除き、まったく見たことのないような事象を題材にすることはほとんどありません。必ず何かのテキストで取り組んだことのあるような事象が取り扱われているはずです。
つまり、一見複雑そうに見える問題であっても、今までに練習してきた公式・法則が必ずあてはまるのです。それに気づけるようになるためにも、問題を解き終えて答え合わせをする際には、その問題の「発想のカギ」「解法のセオリー」は何だったのかを必ず振り返るようにしてください。また、一度解いたことのある問題を、その2つを意識しながらもう一度解き直すことも有効です。
物理は確かに取っつきにくい面もありますが、一度考え方や解法を身につけてしまえば、いろいろな問題に同じ方法を応用するだけで正解できる科目でもあります。取り組み方次第では、医学部入試で得点源にできる科目だと言えるでしょう。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括

