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新生活が楽しくなってきたころに突きつけられた現実
初期費用は想像をはるかに超えていたものの、新天地でのスタートは桜の季節でした。山あいの小さな集落であるため、当初は住民との人間関係を築けるか不安でしたが、社交的な性格の妻Rのおかげで少しずつコミュニティに馴染んでいくことができました。「よそ者」を受け入れてくれないのではと恐れていましたが、杞憂に終わりました。
広い敷地の中に畑を作りはじめ、自宅に設置した新しい薪ストーブのために薪を割るなど、都会での生活ではまったく縁のなかった生活を楽しめるようになってきました。やはり移住して正解だったなと夫婦で話していたのですが、次第にお金の現実を突きつけられることに……。それは「車の維持費」のことです。
夫MさんのSUVの1ヵ月のガソリン代は約2万円、妻Rさんは8,000円程度です。親しくなった近隣住民に訊くと、それでもまだ安いほうだと笑われました。通勤に車を使うともっとガソリン代が必要になるからです。近隣にはスーパーなど買い物できるところがなく、近くの市街地まで1時間程度運転しなければなりません。
ガソリン代もかさみ、体力も奪われるため頻繁に市街地に行くことはできません。しかし買い物だけではなく、病院での診察や銀行での手続きなども加わると、かなりの長時間を運転していることになります。さらに走行距離が伸びることでオイル交換の費用もかかります。
新年度になると自動車税の支払いも必要です。当初気づかなかったのですが、所有する自動車はどちらも車検のない中古車を買ったため、同じ年の同じ月に2年ごとに車検時期が来ます。その費用も20万円以上は必要でしょう。やがて車の買い替え時期も来ます。80歳まで運転するとしても、Mさん夫婦は今後2台~3台は購入しなければなりません。しかし車を手放すことは現実的には不可能でしょう。生活自体が成り立たなくなります。
「田舎暮らしは車が必需品だとは聞いていたが、本当にそうなんだな。これでは85歳になっても運転しなければならないはずだ」と、夫Mさんは痛感しました。妻Rさんは若いころからこまめに家計簿をつける習慣があったため、東京に住んでいたころと支出を比較してみました。すると驚くことに、マンションの住宅ローンを除けば、移住後の生活費のほうが高かったのです。
妻のRさんがいいます「地方だからといってスーパーでの食材の値段は変わらないし、光熱費も通信費も同じ、衣料品の値段も東京と同じ。結局、地方で安いのは家賃と地価だけなのよね」。
夫Mさんは納得しました。「田舎暮らしはなぜ物価が安いと思い込んでいたのだろう。近隣の農家も自分で生産していない食材はスーパーなどで買っている。今日買ったピーマンも茨城県産で東京と同じ値段だろう。実のところ田舎暮らしは、住宅費を除けば東京よりもコストが高いのではないか……」そう気づき、肩を落としました。