定年退職したら物価も安く、静かで自然溢れる田舎でのんびり暮らしたいという人も多いのではないでしょうか。しかし甘い見通しで移住すると痛い目に遭うケースも少なくないようです。本記事では、Mさん夫婦の事例とともに、田舎暮らしの注意点について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
移住なんてしなきゃよかった…「退職金+貯金で5,600万円」東京育ち・63歳都会っ子夫婦の後悔。夢の田舎暮らし成就も1年、地元民に笑われ、茨城産ピーマンを見つめながらへこたれたワケ【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

移住最初のハードル…初期費用に3,430万円

61歳のとき、Mさんが移住先として決めたのは青森県の津軽地方でした。岩木山の山麓にある集落に一軒、延床面積60坪の大きな古民家が売りに出されているのを発見したのです。元農家の建物で築50年の古い家です。敷地は300坪あり、作業小屋もついています。首都圏なら小さな戸建て住宅ほどの小屋です。大きな柿の木が生えていて、秋になると柿の橙色で鮮やかに染まるはずです。まるで古民家カフェのような、絵にかいたような田舎の住まいです。

 

ここに引っ越すときのMさん夫婦の金融資産は6,600万円。東京のマンションを売却しようかと考えましたが、タイミングよく売れなかったため賃貸に出すことにしました。いずれ売却に成功したら、その分も貯蓄となるはずです。移住先の古民家の値段は1,000万円。破格の値段に思えましたが、不動産業者によると断熱性能はないに等しいとのこと。「現状のままでは冬になると室内のペットボトルの水が凍ります」といわれました。

 

玄関や窓の改修、壁・床・天井の断熱改修、トイレとお風呂の改修、加えて屋根の修繕も必要になるということでした。ストーブとエアコン、給湯器も必要です。最低限のリノベーションにかかる費用は1,500万円ほど。住宅に最低でも2,500万円が必要となる計算です。大きな金額ですが、妻Rさんも建物の雰囲気を気に入ったため、思い切ってキッチンもリノベーションすることに。合計金額で3,000万円になりました。それでも残りは3,600万円とマンションからの家賃があり、老齢年金ももらえるようになると考え、購入と移住を決断しました。

 

ところが移住資金はそれだけでは済みません。いままで都心暮らしで自動車を所有していなかったMさん夫婦は、自動車も購入することに。不動産業者の営業マンのアドバイスによると「なるべく地上高が高い4WD」が無難であるとのこと。その理由がいまいち理解できませんでしたが、アドバイスどおりに中古のSUVを250万円で購入しました。妻Rさんにはやはり4WDの軽自動車を180万円で購入。2台で430万円の出費です。「田舎暮らしというのはお金がかかるもんだな……」夫Mさんは初めて知りました。