
30年間、家族を支え続けてきたけれど…64歳・専業主婦の大決断
夫を亡くしたショックから取り乱し、不安に駆られていた恵子さんでしたが、色々と整理していくと、「どうやら金銭的な心配はそれほどではないらしい」ということがわかりました。それでも「私一人で……」という不安は完全に拭いきれなかったといいます。
また、新たな不安も。それは「孤独」。それまで家族を最優先してきた恵子さん、子どもたちは独立し、夫とは死別したなか、社会とのつながりは希薄でした。
高齢者の孤立化は今や社会問題。その先の行き着く先として、たとえば孤立死は。警察庁によると、昨年上半期、自宅で孤独死した高齢者は2万8,330人と発表。自宅で不慮の死を遂げる人の約8割が高齢者というのが現実です。
また内閣府『令和6年度 高齢社会白書』によると、何らかの社会活動に参加している高齢者の84.4%が「生きがいを感じている」というのに対し、社会活動に参加していない高齢者では61.7%と、20ポイントの差があることがわかりました。生きがいを感じるためにも、社会との繋がりをもつことは重要です。
長年専業主婦として家庭を守ってきた恵子さんは一大決心。お金の不安を低減させるために、また社会とのつながりを持つために、30年ぶりに働きに出ることを決意しました。
――最初は本当に不安でした。30年も仕事をしていないのに、私に何ができるんだろうって
恵子さんは、ハローワークに通ったり、求人情報を調べたりして、自分にできる仕事、自分に合う仕事を探しました。最終的に、近所のスーパーマーケットで仕事を始めることにしたといいます。
――レジ打ちの仕事は初めての経験でしたが、お客様との触れ合いは楽しく、仕事仲間もみなさん親切で。やりがいを感じています
株式会社プロフェッショナルバンク『高年齢者雇用に関する意識調査』によると、65歳以降も働きたい理由として最も多かったのが「生活費を補うため」で74.7%。「生活リズムを整え、健康を維持するため」51.2%、「働くことに生きがいや楽しさを感じるため」34.3%と続きます。高齢者が働く理由。ダントツ一位は「お金」ですが、「健康」や「生きがい」なども、働くうえで大切な動機になっているようです。
恵子さんは、30年ぶりの仕事を通じて、さまざまな人と出会い、新しい知識や経験を得ることで、「夫のいない日々ではあるものの、生きがいを感じられるようになった」と前向き。恐れることなく、新たな一歩を踏み出して本当によかったと振り返ります。
[参考資料]
警察庁『令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について』