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年金月15万円→21.3万円。まだ年金を繰下げるつもりだったが…
伊藤さんが65歳で年金を受け取っていれば、月15万円ほどの年金を受け取ることができました。5年間、受け取りを我慢したことで月21.3万円に増えていました。さらに65歳以降も厚生年金に加入していたため、月1万円ほど、さらに受取額は増えていたといいます。
――まだ働くつもりだから、まだ受取額は増やせるな
そう思っていましたが、伊藤さんに思いもしないことが巻き起こります。健康診断で再検査となり、そこで「肺がん」の診断を受けたのです。医師の説明では治療は長引きそうな予感。
――潮時か……老後、少しでも楽がしたいと思っていたが、まさかがんになるなんて、繰下げをしても意味がなかったな
伊藤さんは、思わず後悔を口にしてしまいましたが、会社を退職する決意をするとともに、年金の受け取りを開始することにしました。
高額の治療費のため一括請求を選択したが…
年金の繰下げにより受取額が4割増に。しかし、伊藤さんの選択は違うものでした。医師の説明を受けて、保険適用外とはなりますが、新たな治療を試みることにしたというのです。ネックとなるのは高額の治療費。貯蓄を取り崩して……しかし一気に貯蓄が減るのは、がんを克服したあとの生活を考えると避けたいところ。そこで伊藤さんが選択したのは年金の一括請求でした。
年金は5年の時効がありますが、さかのぼって請求することができます。伊藤さんの場合、65歳までさかのぼり、「受け取っていない5年分の年金」を一気に受け取ることにしたのです。年金は増えませんが、一度に年金を受け取ることができる……治療費が高額となることが確定的な状況下、最適な選択肢と判断したのです。
月15万円の5年分、900万円を受け取ることができる……しかし、これはあくまでも額面。伊藤さんの場合、65歳からの年金を遅れて請求し、一括で支給を受けることになります。しかし、過去各年度の収入が増えることになるので修正申告をしなければならず、税務署から過去分の所得税・住民税の不足分を追加納付を求められるでしょう。さらに延滞税もかかることを忘れてはなりません。伊藤の場合、約7万円の延滞税がかかりました。
――税金の納付が遅れてすみません、というのが延滞税ですよね。理屈ではわかりますが「ふざけるな!」といいたいですね
年金の一括請求に際し、延滞税や延滞金が賦課される可能性があることまで想定して判断しているのか、国会でもたびたび議論されています。それに対して、『老齢年金の受給権を取得した日から起算して一年を経過した日後に当該老齢年金を請求する者等に対しては、年金請求時の確認書類等において「過去分の年金を一括して受給することにより、過去にさかのぼって医療保険・介護保険等の自己負担や保険料、税金」等に影響がある場合がある旨説明しており、引き続き、受給権者に対して丁寧な説明に努めてまいりたい。』と答弁がされています。
現行制度では不満があっても、ルールはルール、従わざるを得ません。年金の一括請求では、まとまったお金を受け取れる代わりに、修正申告のうえ、税金や社会保険料、さらには延滞税や延滞金がかかることを心得ておくほかありません。
[参考資料]