少しでも年金の受取額を増やしたいと、年金の受け取り開始時期を66~75歳に遅らせる代わりに年金受取額が増額となる「繰下げ受給」を選択する人が増えています。しかし「年金の繰下げ受給」には、「寿命による受給総額の変動」「税金や社会保険料の増加」「加給年金や振替加算が受け取れない場合がある」などのデメリットがいわれています。これらを考慮したうえで、納得して繰下げ受給を選択することが重要です。
年金を繰り下げても意味なかったな…〈増額した年金月21万円〉を諦めた70歳男性〈年金の一括請求で900万円〉を手にするはずが、税務署からの残酷な通知に「ふざけるな!」 (※写真はイメージです/PIXTA)

60代後半の高齢者…東京23区で暮らすには最低12.8万円が必要

厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』によると、年金受給者のうち、「所得の100%を年金が占める」という人が41.7%、「80~100%」が17.9%で、双方合わせると6割近くにもなり、日本の高齢者がいかに年金を頼りに暮らしているかがわかります。

 

65~69歳の高齢者のひとり暮らしを考えてみると、たとえば東京23区の最低生活費は家賃5万3,700円(住宅扶助)込みで12万7,920円であり、年金や貯蓄の取り崩しで、1ヵ月にこれだけのお金がなければ東京23区では最低限の生活もままなりません。年金への依存度が高く貯蓄も心許ない、という人であれば、何とか毎月の年金受取額を増やせないものかと考えるでしょう。そこで選択肢のひとつに数えられるのが「年金の繰下げ受給」です。

最大84%増となる「年金の繰下げ受給」

老齢年金は原則65歳からの年金受給開始となりますが、希望により66~75歳の間の好きなタイミングで受け取り開始とすることができます。また年金を1ヵ月遅らせるごとに受取額は0.7%ずつ増額となり、75歳まで受給開始を遅らせると84%と、年金受取額は約2倍にも増加。毎月の収入が増えればそれだけ生活は安定させることができるので、昨今、繰下げ受給を選択する人は右肩上がりで増えていっています。

 

*昭和27年4月1日以前生まれ(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している場合)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)まで

 

伊藤豊さん(仮名・70歳)も繰下げ受給を選択した人のひとり。勤めている会社では70歳まで働くことができ、さらに双方が同意すれば70歳以降も働き続けることができます。給与は毎月23万円、手取りで18万円ほど。

 

――これだけあれば年金を受け取る必要はない。年金の受け取りを我慢して、そのぶん増えるのを楽しみに待とうと思っていました