安心して暮らすことのできる「終の棲家」として、「老人ホーム」を選択する人が増えています。「高齢の親、ひとり暮らしは何かと心配」という子どもの声も「老人ホーム」への入居を後押ししているようです。しかし、老人ホームに入れば未来永劫、安心、というわけではありません。
地獄でした…年金月18万円・78歳男性「終の棲家」を探し「老人ホーム入居」を決断。安心の日々も一転、11ヵ月後に起きた「まさかの事態」に唖然 (※写真はイメージです/PIXTA)

春の人事異動で新しい施設長が就任。嵐の予感…

老人ホームでの生活は、佐藤さんによって理想そのものでした。毎日、散歩をしたり、趣味の囲碁を楽しんだりと、他の入居者と交流。何かあっても、すぐスタッフが駆けつけてくれる。ここには妻を亡くしひとりで暮らす孤独感も、万一の際にどうしようという不安感もありません。

 

そんな平穏な日々は1年と続かず、終わりを迎えます。

 

ある日、佐藤さんは、施設内の掲示板に「人事異動のお知らせ」が掲示されているのを見つけました。そこで人事異動で新しい施設長が赴任してくることを知ります。「老人ホームも会社だからなぁ。当たり前か」とそれほど気に留めていませんでしたが、それがすべての始まりでした。

 

新しい施設長が就任すると、スタッフたちの表情が次第に曇り始めました。これまでのような温かい雰囲気が失われていくのを感じ、入居者への接し方もどこかマニュアル通り、という雰囲気が漂うように。どうやら新しい施設長はスタッフに対して厳格で、経営効率を重視するスタイルのようです。

 

たとえば食事。以前は3皿あった小鉢が2皿に減少し、バリエーションが少なくなりました。盛り付けや彩りが工夫されなくなり、食欲をそそらない見た目に。季節やイベントに合わせた特別メニューが提供されなくなりました。

 

入居者へのサービスも簡略化。ゴミの収集が入居者の責任となり、スタッフのサポートが減りました。余暇活動やイベントが少なくなり、入居者の楽しみも減少。スタッフの行動は厳密に時間管理され、入居者とのコミュニケーションは極端に減りました。

 

その後、新しい施設長の厳しい方針に耐えられなくなったスタッフたちは、示し合わせたかのように一度に離職。残されたスタッフもモチベーションを失い、入居者へのサービスは著しく低下していくのを目の当たりにしました。

 

スタッフの数が減ることで、入居者の健康状態の把握が難しくなったのでしょう。以前よりも救急車が来ることが多くなった気がします。清掃にスタッフを割くことができず、以前は新築のようにキレイだったホームですが、徐々に汚れやゴミが目立つように。

 

――もう、地獄のような日々でした

 

ホームでの生活に不安を感じているなか、長女から連絡を受けた佐藤さん。サービスの低下が口コミで広がり、ホームの評判は著しく悪化。そのことが長女の耳にも入り、他ホームへの転居を勧められたのです。

 

確かに、今のホームには理想だった「終の棲家」の面影はまったくなく、安心して暮らすことはできません。再び長女がいくつかのホームをピックアップ。転居に向けて動き出しています。

 

一度入ったら安心、というイメージがある老人ホーム。佐藤さんが入居しているホームのように、施設長の変更により、ホームの雰囲気が変わることも。また運営会社が変更になるケースも。その場合、費用においても大きく変わることがあります。頻発する問題ではありませんが、ゼロではない、と心得ておいたほうがいいでしょう。

 

[参考資料]

ベンチャーサポートコンサルティング株式会社『シニアの住み替えに関する調査』