賃上げの効果はじわりと広がり、昨年の冬には「賞与増額!」で歓喜した人も多いのでは。一方で、「ボーナス増額は嬉しいけれど……」と複雑な表情をみせたサラリーマンもいたとか。その背景には、複雑な日本の年金制度がありました。
今年は儲かったからボーナスは弾みます!〈年金22万円・66歳サラリーマン〉が浮かれ気分の社長に舌打ち、〈年金停止の通知〉に「やっていられません!」 写真はイメージです/PIXTA

ボーナス支給で「在職老齢年金」の上限超えのまさか

働く意欲をみせてくれる松井さんですが、そんな気持ちをそぐ出来事が起きたといいます。

 

――社長が、「今年は儲かった。よしボーナスアップだぁ。シニア社員のみなさんにもボーナスをお渡しします!」と言い出して。思わず舌打ちをしてしまいました

 

なぜボーナスがもらえるのに舌打ちを?

 

その理由が、昨今、何かと話題になっている在職老齢年金。働きながら年金を受け取っている場合、収入によって年金の一部、または全額が支給停止になる制度です。受け取る老齢厚生年金の年額を12で割った額である「基本月額」と、月々の給与(標準報酬月額)に過去1年間の賞与額の合計を12で割った額を加えた「総報酬月額相当額」、その合計が上限を超えると、一部、または全額が支給停止になるのです。

 

支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-上限基準額)×1/2

 

上限基準額は以前は28万円でしたが、2022年に47万円、2023年に48万円、2024年に50万円、そして2025年は51万円に引き上げられてきました。しかし2022年度末時点で年金支給(一部)停止となったのは50万人に達するといわれ、上限額が4万円ほど引き上げられたいまでも、同程度が支給(一部)停止になっているとか。本来受け取れる年金が減額となることで労働意欲減退につながったり、上限に達しないよう働き控えに繋がったりと、マイナス面が強調され、上限撤廃が叫ばれています。

 

――こちらの事情も知らず、社長はただ浮かれている様子だったので……ちょっと腹が立ちました(笑)。頑張って働いた結果、年金が支給停止なるというのは、今いち納得いかないですよね

 

そして日本年金機構から「年金支給額変更通知書」が届き、改めて年金支給停止の現実を目の当たりにします。支給停止額は月1万円。

 

――たった月1万円かもしれませんが、されど月1万円。やっていられませんよ

 

2025年は上限1万円引き上げにとどまりましたが、2026年には62万円に引き上げる方向で調整中という報道も。ただ年金給付額は約2,200億円増え、将来年金を受け取る世代の厚生年金額は引き下がることになるといいます。

 

年金世代の給付額が増える分、子ども世代の年金額が減る……さまざまなところから「やっていられない」という声が聞こえてきます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『在職老齢年金』

厚生労働省『令和7年度の年金額改定についてお知らせします』