共働き世帯が増加する一方、専業主婦世帯も約430万世帯存在する日本。専業主婦世帯では、夫の収入が家計を支える基盤となるため、夫に万が一のことがあった場合の影響は容易に想像がつくでしょう。一方で、もしも妻に万が一のことがあった場合、どうなるでしょうか?
月収100万円・35歳エリート夫「無収入の専業主婦・32歳妻」の急逝でまさかの「住宅ローン破産」のワケ…“日本の430万世帯”が孕む特有リスク (※写真はイメージです/PIXTA)

まさか…31歳の若さで妻が急逝

しかし1年前、孝一さんの家族に悲劇が襲います。妻の恵さんが子宮頸ガンを患いました。発見時にはすでに病状が重く進行しており、諦めまいと闘病しましたが、苦労が報われることはなく、亡くなってしまったのです。

 

孝一さんは深い悲しみに暮れていましたが、これからの家計のことを考えなければと、なんとか自分を奮い立たせます。しかし、家事や子育てにまったく参加してこず、仕事中心の生活を送ってきた孝一さんにとって、家計は未知の世界。

 

妻の恵さんは苦しい闘病生活もあって、身の回りの整理や遺言書の作成などをする余裕がありませんでした。孝一さんは生活費がどの口座から引き落とされているのかさえ知りません。毎月の支払いはどこに対して、どの口座から引き落とされるのかということが、まったくわからない状態だったのです。

 

孝一さんが大まかに計算したところ、収入は孝一さんの給与(多少の変動はあり)と遺族基礎年金約125万円で、支出は特に増える要素がないため、問題ないと考えました。むしろ、当面のあいだは遺族基礎年金が支給されるので、収入が増えます。住宅ローンも孝一さんの単独名義なので、妻が亡くなっても影響はなさそうです。また、妻の生命保険は医療保険だけで、死亡保障はありませんでしたが、特に困ることもないだろうと考えていました。

 

貯蓄のことを調べた際、普通預金に約1,500万円が入っているのを見て驚いた孝一さん。結婚当時は貯蓄がまったくない状態だったのです。しっかり者の妻の姿を思い出し、また涙が出てしまいました。――しかし、孝一さんはすぐに現実に直面することになります。あまりにも単純なことに気が付かなかったのです。

収入激減…いったいなぜ?

孝一さんの仕事は、IT企業の役員です。顧客との会食や接待、海外出張など、平日の業務に加え、土日もイベントや会議に出席することが多くありました。これまで、土日は恵さんが娘たちの面倒を見てくれていたため、そういった働き方が可能だったのです。

 

しかし、いま子どもたちをみられるのは孝一さんだけ。妻がいるからと保育所に預けることを考えていなかったうえ、近くに頼れる親戚もいません。仕事の邪魔をされたくないという理由で、リモートでできる業務であっても毎日コワーキングスペースやカフェに通っていた孝一さんでしたが、それもできなくなってしまいます。

 

とはいえ、まだ幼い子ども2人を家に置いていくわけにもいきません。子どもをみながらでは、仕事がまともに手につかず、顧客との関係構築や重要な会議への出席ができなくなり、業績にも影響が出ます。その結果、業績連動型の報酬が大幅に減少。孝一さんは会社に事情を相談しましたが、会社の業績を考えると、孝一さんのような重要なポジションの役員の業務量を減らすのは難しいと告げられました。

 

減っていく貯蓄に焦りを感じた孝一さんは、なんとか時間を作って仕事に取り組むように。睡眠や食事の時間を削っていたことで、心身ともに限界を迎え始めます。母がいないうえ、家にいる父も相手をしてくれないことで子供たちもストレスを感じ、特に夜になると寂しがるようになりました。姉妹での喧嘩が増えたことも、孝一さんには気がかりです。

 

「もういままでのようには働けないのか……」そう気づいたとき、孝一さんは厳しい現実を突きつけられました。