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突然の家族の病と迫られた決断
順調にキャリアを築いていたAさんだったが、昨年、最愛の母親がガンを患った。主治医からは、まずは1ヵ月間の入院が必要でその後、時期を見て手術を行うとの説明を受けた。生命保険には入っておらず、治療費や入院費を貯金で賄うことができなかったため、Aさんはやむを得ずカードローンを利用した。
高額療養費制度を利用して医療費の負担を軽減することはできたものの、それでも1ヵ月におよぶ入院中の医療費に加え、食事代や日用品、差額ベッド代などの支出が重くのしかかった。退院後は1~2週間に1度の通院治療となったが、地元には大きな病院がなく、実家から車で片道1時間かけて移動する必要があった。ガソリン代もばかにならなかった。
母親の入院中、Aさんは休職して看病に専念していたが、通院治療に移行するタイミングで「母親の治療をなによりも優先したい」と思い、東京での仕事を辞め、実家へ戻ることを決意。なんとか転職はできたものの、もともと40万円だった月収は約10万円も減少。母の治療費負担が重なり、奨学金の返済が次第に困難になった。
「わずかな貯金を毎月切り崩してカードローンと奨学金の返済に充てていましたが、とうとう底をついてしまって……。とにかくお金が必要なので、自分には無縁だと思っていた夜の仕事も始めました」
そう語るAさんは、利息が高いカードローンの返済を優先せざるを得ず、半年ほど前から奨学金を返済できない状態が続いている。
奨学金延滞によるブラックリスト入りの恐怖
奨学金は3ヵ月連続で延滞すると、信用情報機関、いわゆる“ブラックリスト”に登録される。一度登録されると、奨学金を完済しても5年間は記録が残り、新たなローンやクレジットカードの審査が厳しくなる可能性がある。
奨学金は、進学や希望する職への就職を叶える手段となるが、不測の事態が起きた際には大きな経済的負担となる。日本においては、貸与する側に比べて、返済する側への支援策は圧倒的に少ない。仮に就職できなかったら? 病気になってしまったら? 会社が倒産してしまったら? それでもすべて自己責任で返済しなければならず、返済が遅れたらブラックリスト入りなのだ。
現在、大学生の約2人に1人が奨学金を利用している。今後、少子高齢化が進むにつれて医療費の自己負担額も増加する可能性があり、奨学金返済の負担もさらに大きくなる懸念がある。日本学生支援機構では、減額返還制度や返還期限猶予制度などの支援を行っており、企業の代理返還制度の導入数も増加傾向にある。このような社会構造の変化に合わせ、奨学金制度をはじめとした支援の仕方も変えていく必要があるのではないだろうか。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者