(写真はイメージです/PIXTA)
今後の選択肢
1|伴走支援の必要性
まず、考えられる選択肢として、自治体の人材育成や伴走支援が考えられます。この関係では既述した「市町村職員を対象としたセミナー」に加え、医療行政に関する都道府県向け研修会など、自治体向けに様々な研修やセミナーが開催されています。こうした機会は非常に重要であり、国と自治体の連携を一層、深める必要があります。
ただ、これだけでは十分とは思えません。上記の会合を見ていると、多くのケースで「国の行政説明→自治体の好事例→意見交換」という形式が取られます。分かりやすく言うと、「国が立てた問いの下で、自治体がどう創意工夫するか」という点に力点が置かれます。これは企業経営で言うと、自社の商品やサービスを市場に売り出す「product-oriented」の手法に近いと言えます。
一方、「地域の実情」に応じた体制整備では、自治体が「実情」に応じた問いを自ら立て、国の制度を上手く使いつつ、その解決策を関係者と模索する必要があります。このため、課題解決の答えを国は明確に持っているのではなく、自治体が自ら探す必要があります。これは企業経営で言うと、市場の動向を見つつ、商品やサービスを開発する「market-oriented」の発想に近いように映ります。
このため、「地域の実情」に応じた体制整備を図る上では、後者のような視点に立ち、人材育成や組織開発を自治体で目指す必要があり、国や研究機関などによる伴走支援の強化が求められます。
2.集住の選択肢も
一方、今後は人口減少の加速化に伴って、医療・介護のサービス提供が危ぶまれます18。特に在宅ケアの提供に際しては、移動時間が長くなると採算が悪化するため、人口密度がマバラな地域では、住民の同意を前提としつつ、集住の選択肢も検討する必要がありそうです。たとえば、自治体が高齢者住宅などを整備し、そこに希望者に集住してもらい、医療と介護を包括的に提供するイメージです。
なお、先に触れた医療部会意見書では、医療・介護提供体制の整備に際して、「高齢者の集住等のまちづくりの取組」と一体的に議論する必要性が言及されています。今まで集住は居住の自由との兼ね合いでタブー視されていた面がありましたが、こうした文言が公然と出始めた辺りに、人口減少の影響の深刻さが読み取れます。
18 この関係では、「連携以上、統合未満」の形で事業所が連携する「地域医療連携推進法人」「社会福祉連携推進法人」の活用も含め、人口減少地域で医療・介護サービスを包括的に提供する主体の構築も論点になる。さらに、地域別報酬の可能性も意識する必要がある。診療所や介護事業所に対する報酬は原則として出来高払いであり、人口減少局面では経営の維持が危ぶまれる。そこで、人口減少地域で医療・介護を担う事業体については、人口などを考慮した包括払いも選択肢になり得る。ただ、包括払いでは必要なケアが提供されない危険性があり、出来高払いや成績払いを組み合わせる論点になる。
3.「補完性の原理」を広域化で修正?
さらに、今後は市町村の機能低下が危ぶまれるため、市町村の機能を広域化することで、「補完性の原理」の考え方とか、「国―都道府県―市町村」の三層構造を部分的に修正する必要が出て来そうです。実際、今でも複数の市町村で組織する広域連合や一部事務組合が介護保険などの運営を担っているケースは少なくないですが、これを人口減少地域で広げるイメージです。しかも、総務省は2024年度補正予算と2025年度当初予算案で、「広域連携による市町村事務の共同実施モデルの構築」という事業も盛り込んでおり、この選択肢は現実的に検討されつつあります。
ただ、広域化が唯一の解とは言えない面があります。具体的には、都道府県は対人支援業務を余り担っておらず、いきなり市町村の事務を都道府県に移しても、有効に機能すると思えません。広域連合や一部事務組合についても、自前の職員を雇っているケースは少なく、組織のトップも直接選挙で決まっているわけではないため、住民から見ると縁遠くなります。さらに行政機構が複雑化し、権限関係が輻輳するデメリットもあります。
このため、広域化を検討する際には、そのメリットとデメリットを勘案する必要があります。さらに、どんなに機構を広域化しても、医療・介護など住民の暮らしに身近な対人支援業務は誰かが担う必要があるため、要介護認定や保険料の算定などで広域化を図りつつ、個別対応が求められる対人支援業務については、住民の現場に近い部署に残す工夫も必要になると思われます。
4.医療と介護の包括的な提供を支える行政機構の選択肢
このほか、少し気が早い考え方(妄想?!)として、人口減少が進んだ地域を対象に、たとえば2次医療圏単位19で、市町村の介護・福祉に関する事務を広域化するとともに、都道府県が持つ医療の権限を分権化することで、域内の医療・介護行政を一元的に所管する自治体を創設する選択肢も考えられると思います。分かりやすく言えば、都道府県内の分権を図りつつ、市町村事務の広域化を同時に進めるイメージです。この制度改正を通じて、医療と介護の行政が円滑に連携できれば、医療と介護の切れ目のない提供体制が構築されやすくなるかもしれません。
ただ、この選択肢も機構の複雑化などのデメリットが想定されるため、利害得失を十分に検討した上で制度改革を議論する必要がありそうです。
19 地理的条件や交通事情などを踏まえると、2次医療圏という圏域にこだわる必要はない。
人口減少時代、自治体はどうあるべき?
今回は地方分権25年を機に、筆者の関心事である医療・介護を中心に、人口減少時代の自治体の在り方を検討しました。四半世紀に及ぶ分権論議の結果、自治体の自主性を引き出せたと思いますが、医療・介護で語られている「地域の実情」に応じた体制整備では、自治体に対する伴走支援とか、企業戦略で言う「market-oriented」の発想が求められます。
一方、「分権疲れ」の状況とか、デジタル化に向けた標準化の必要性、今後の人口減少などを踏まえると、「補完性の原理」に立った分権一辺倒の議論では難しくなっている気がします。より有体に言うと、「分権=善」「集権=悪」という二元論や「国―都道府県―市町村」の三層構造の前提を再考し、機能や内容に応じた事務を議論する必要があると思います。
特に、人口減少の関係では、表立って論じられていなかった「集住」も視野に入るし、ここでは少し気の早い制度改正(妄想?!)にも言及しました。中長期的なスパンに立った国と自治体の議論や対応に期待したいと思います。