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四半世紀での変化と、浮き彫りになりつつある「分権の限界」
1.自主的な対応が可能に
では、こうした見直しが積み上げられる中、どこまで自治体の現場は変わったのでしょうか。明確に指摘できる点として、自治体の判断で独自の施策が展開されやすくなった効果を指摘できます。
その一つの表れとして、ここでは厚生労働省が定期的に主催している「市町村職員を対象とするセミナー」に着目します。これは1999年度から170回以上も実施されているセミナーであり、市町村に関わる施策に関して、厚生労働省が内容や経緯などを説明。その後、市町村の取り組みが「好事例」として紹介されることが多くなっています。それだけ一部の自治体が国の期待に沿う動き、あるいは国の制度改正を先取りするような取り組みを実施している証と言えます。
さらに、筆者自身が「制度が変われば人の意識も変わるのか」と感じた例として、国保の都道府県化を挙げたいと思います。
先に触れた通り、三位一体改革で都道府県は負担増を忌避し続けたものの、2018年度改正では国保に関する都道府県の財政責任が明確になり、都道府県は市町村と並ぶ「共同保険者」と位置付けられました11。2023年通常国会でも、国保保険料の水準を都道府県単位で統一化する方向性が強化されるなど、都道府県単位で負担と給付の関係を明確にする制度改正も進められています12。
そのためか、地方財政の専門誌で、国保の財政運営に関する寄稿を目にする機会が増えています13。以上のような事例を踏まえると、四半世紀に及ぶ制度改正は確実に自治体の意識と行動を変えたと言えます。
11 国保改革では、2018年4月11日拙稿「国保の都道府県化で何が変わるのか」(全3回、リンク先は第1回)を参照。
12 2023年通常国会における法改正では、保険料水準の統一化を加速させるなどの見直しが講じられた。過去の経緯については、2024年7月17日拙稿「全世代社会保障法の成立で何が変わるのか」を参照。
13 『地方財務』2024年4~6月号では北海道、2023年10~12月号と2024年8~11月では高知県の事例が紹介された。
2.新型コロナ対策では?
さらに、2020年からの新型コロナウイルス禍ではワクチン接種や病床確保などで、地域の名前を冠した「〇〇モデル」が注目され、一部は国の施策として取り込まれました。この時には不十分な自治体の状況を批判的に見る論者から「大都市部のコロナ対策を国直轄で実施」という斬新なアイデア(?!)が提案された時もありましたが、筆者は「自治体の地力と分権の限界が現れた」と考えていました。
ここで言う「地力」とはポジティブな意味です。分権は独自に判断する「自由」を自治体に付与するため、分権改革から四半世紀も経過する中で、自治体の政策形成能力が高まり、国に先んじた動きも含めて、「地域の実情」に応じた「〇〇モデル」が生まれる素地となったのは間違いありません。
しかし、分権は「平等」を失わせます。具体的には、地域ごとの取り組みに差異が生まれ、格差が目立つようになります。特にコロナのような感染症対応では、対策が不十分な地域から感染が拡大するため、その差が目を引くようになります。これが「分権の限界」です。
しかも、ここで指摘している「分権=自由か、集権=平等か」という論点は二律背反なので、両立させることは困難です。このため、どちらかに偏った議論を展開すれば解決する話ではありません。
たとえば、コロナ禍の反省に立ち、新興感染症対策の「司令塔」として、内閣感染症危機管理統括庁が2023年9月に発足しましたが、別に同庁を含めて、国の権限が大幅に強化されたわけではなく、病床確保などの権限は引き続き都道府県によって担われています。このため、自治体ごとに差異が広がるかもしれない点で、「分権の限界」は依然として解決していません。
3.デジタル技術の導入では……
こうした「分権の限界」はDX(デジタル・トランス・フォーメーション)でも浮き彫りになります。DXでは業務の標準化が欠かせず、自治体ごとにルールが違う「ローカルルール」は妨げになります。
たとえば、介護保険の事務処理では、提出を求められる書類の種類が市町村ごとに異なるという調査結果14が明らかになっており、現場の専門職に聞くと、書類の受け付け方でさえ、自治体ごとに「消印有効」「必着」で違うという笑い話も聞きます。
しかし、これではDXによる効率化は困難であり、かなり細部に渡って標準化が必要になります。その結果、厚生労働省が法的拘束力を持って市町村を縛るなど、集権的な対応が必要になります。言い換えると、四半世紀で志向されてきた分権の考え方と相反する面が強まります。
14 厚生労働省の調査によると、特別養護老人ホームの更新申請に関する書類について、最少の自治体は2枚なのに対し、最多の自治体は149枚も提出を求めているという。ローカルルールの実態については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2023)「文書負担軽減や手続きの効率化等による介護現場の業務負担軽減に関する調査研究事業報告書」も参照。