(写真はイメージです/PIXTA)
2025年度改定の注目点
以上の試算結果から、2025年度分の改定率で注目すべきポイントは次の3点と見込まれる。
(1) 3年連続の増額改定
第1のポイントは、今年の物価上昇を反映して、年金額が3年連続で増額される点である。約1年遅れにはなるが、昨年度と同様に物価上昇が年金額改定に織り込まれ、3年連続の増額改定となるのは、高齢世帯にとってある程度の朗報と言えよう。
(2) 3年連続の目減りで、年金財政の健全化が進展。調整率の繰り越しも発生せず
一方で、第2のポイントは、年金額の実質的な価値が3年連続で目減りする点である。前述した試算では、前年(暦年)の物価上昇率が+2.6%、賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)が+2.2%という状況下で、調整後の改定率は+1.9%にとどまる。名目の年金額は増えるものの、物価や賃金の伸びには追いついていないため、実質的な価値が目減りすることになる。
しかし、調整率(いわゆるマクロ経済スライド)という形で少子化や長寿化の影響を吸収して年金財政の健全化が進むことで、将来世代が受け取る給付水準のさらなる低下を抑えられる。世代間の不公平をなるべく縮小する、という制度の意義を理解する必要があろう。
(3) 本来の改定率が、物価上昇率よりも低くなる
第3のポイントは、マクロ経済スライドの調整率を差し引く前の本来の改定率が、物価上昇率(+2.6%)よりも低い賃金上昇率(+2.2%)になる点である。現在の制度では、67歳以下の本来の改定率は64歳までの賃金上昇を反映するために常に賃金上昇率が使われる一方で、68歳以上の本来の改定率は物価上昇率と賃金上昇率のいずれか低い方が使われる。このため、物価上昇率よりも賃金上昇率が低い状況では、67歳以下でも68歳以上でも、本来の改定率が物価の伸びに追いつかない形になる。
マクロ経済スライドの影響を除いても年金額の伸びが物価の伸びに追いつかないのは、公的年金が収入の大半を占める高齢層にとって厳しい仕組みと言える。しかし、このような経済状況では、現役世代も賃金の伸びが物価の伸びに追いつかない状況で生活している。つまり、現在の制度は、賃金の伸びが物価の伸びに追いつかない厳しい経済状況において、現役世代と高齢世代で同じ痛みを分かち合う形になっている、と言える。
3年連続の目減りを機に、現役世代と高齢世代の相互理解を期待
年金額の改定は、名目額が下がる場合に話題になることが多い。しかし、名目額が下がるのは図表4右の特例bに該当する場合であるため、マクロ経済スライドが適用されず(すなわち年金財政の健全化が進まず)、実質的な価値は低下しない。直感的には理解しづらいが、図表4右の原則や特例aのように名目額が上がる際や据置になる際に実質的な価値が低下して年金財政の健全化が進む点を、理解しておく必要がある。
2025年度の年金額は、筆者の粗い試算に基づけば、+1.9%程度の増額となる見通しとなった。年金額の改定では前年(暦年)の物価上昇率を反映するため、2025年度の年金額は2024年の物価上昇を反映して3年連続の増額改定となる。しかし、年金財政健全化のための調整(いわゆるマクロ経済スライド)が発動されるため、年金額は名目では増額となるものの実質的な価値が低下する。また、マクロ経済スライドの調整率を差し引く前の本来の改定率が、物価の伸びに追いつかない形になる。
現役世代は、少子化や長寿化が進む中で負担する保険料(率)が固定され、高齢世代が物価や賃金の伸びを下回る年金の伸びを受け入れることで将来の給付水準の低下が抑えられることに、思いをはせる必要があるだろう。一方で高齢世代は、これまでの物価や賃金の伸びが低い状況では年金財政の健全化に必要な調整が先送りされ、将来の給付水準のさらなる低下につながっていたことを理解する必要があるだろう。両者の相互理解が進むことを期待したい。