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物価上昇に追いつかず実質賃金は減少
(2) 賃金上昇率:物価の伸びに追いつかず、2023年度の実質は-1.4%と仮定
賃金上昇率は、計算に用いられる賃金が年金保険料や年金額の計算に使う標準報酬であることに加え、性別や年齢構成等の変化による影響や厚生年金の適用拡大による影響を除去して上昇率が計算されるため、正確な把握が難しい。
標準報酬の大部分を占める標準報酬月額は、通常は4~6月の給与をもとに9月に定時改定される。2023年度の標準報酬月額(共済以外)の動向を見ると([図表2]中)5、4-6月に前年同月比+0.7%程度で推移した後、7月から上昇率が徐々に拡大し、10月以降は+1.6%前後で推移した。前述したように、年金額の改定では賃金上昇率から適用拡大の影響が除去される。
公表されている資料では2022年10月に拡大された影響を直接には把握できないが、2022年10月以前に厚生年金が適用されていた方も含む短時間労働者全体を除いて賃金上昇率を計算すると、前年は適用拡大前であった4-9月は厚生年金加入者全体よりも高い水準で推移したが([図表2]中の点線)、前年も適用拡大後に該当する10月以降は厚生年金加入者全体と同程度で推移した。
また、標準報酬のもう1つの構成要素である標準賞与は、対象者数が特に多い6・7・12月の加重平均で前年同期比+1.0%となり、厚生年金加入者全体に占める賞与支給者の割合は1.027倍であった(共済以外かつ短時間労働者以外・図表割愛)。
この2要素(標準報酬月額(共済以外)と標準賞与(共済以外))以外に共済年金分や性年齢構成等の変化の除去も考慮する必要があるが、現時点の資料では把握できないため、ここでは前述の2要素から2023年度の標準報酬の変動率を+1.8%と仮定する6。この+1.8%は名目の変動率であるため、2023年(暦年)の物価上昇率+3.2%で実質化した-1.4%を、2022年度の実質賃金変動率と仮定する。
5 2025年度の年金改定率を計算する際に2024年度の実質賃金変動率が参照されないのは、改定率を決める1月時点では2024年度が終わっていないためである。後述する公的年金の加入者数も同様である。
6 2021年度末の厚生年金加入者4065万人のうち共済年金(公務員共済と私学共済)の加入者は472万人であるため、共済年金を考慮しなくても大きな影響は生じない。2021年度の実質賃金変動率は、この方法で計算した値が+1.4%、実績が+1.2%だった。
(3) 公的年金の加入者数:適用拡大の影響で、2023年度は+0.2%と仮定
公的年金の加入者数(共済以外)は、2023年4月の前年同月比+0.4%から徐々に増加傾向が弱まり、10月には前年の厚生年金の適用拡大の影響が剥落して増加率が大きく縮小し、年度平均では+0.2%となった([図表2]右)。
増加率としては小幅に見えるが、これまでの少子化を考えれば、公的年金の加入者数は減少してもおかしくない。小幅とはいえ増加しているのは、高齢期就労が進展している影響と考えられる7。なお、共済年金の状況は現時点の公表資料では把握できないため、2023年度の公的年金加入者数の変動率を前述の+0.2%と仮定する。
7 適用拡大の対象者のうち、20~59歳は厚生年金適用前も国民年金の加入者として公的年金加入者に含まれているため、公的年金加入者の増加要因は60歳以上が中心である。