2025年度の年金額改定の背景には、物価上昇率や賃金の動向など、複雑な経済状況がある。年金額は昨年の物価上昇を反映して増額される一方、実質的には目減りする可能性が高いとの試算も出ているなか、これらの動向年は金財政にどのような影響をあたえるのだろうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が、2025年度の年金額改定の詳細とその注目点について解説する。
2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献…2025年度の見通しと注目点 (写真はイメージです/PIXTA)

2024年の物価上昇が織り込まれるが、年金財政健全化のため実質的には目減り

今後の動向や現時点で把握できていない共済分の動向は不透明だが、2025年1月に予定されている正式公表を理解するための準備として、改定率の粗い見通しを試算した([図表3])。

 

[図表3]年金額改定率の粗い見通し(筆者試算)

 

(1) 本来の改定率:2024年の物価上昇を反映するが、2023年度の実質賃金下落で伸び率圧縮

まず、本来の改定率の計算過程を確認する([図表3]の上段の2024年度の行)。物価変動率([図表3]上段の①の列)は、前述した+2.6%(仮定)である。実質賃金変動率([図表3]上段の②の列)は、4年度前(2021年度)が2020年度の新型コロナ禍からの反動で上昇した+1.4%(実績)、3年度前(2022年度)が名目では上昇したものの物価上昇率には追いつけなかった-1.1%(実績)、2年度前(2023年度)が前述した-1.4%(仮定)であるため、3年平均は-0.4%となった。このように3年平均を使うことで、急激な変動が回避されている。

 

可処分所得割合変化率は2017年に保険料の引上げが終わりゼロ%であるため、本来の改定率の指標となる賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)は、物価変動率と実質賃金変動率を合計した(厳密には掛け合わせた)+2.2%となる([図表3]上段の①+②+③の列)。

 

本来の改定率は、法定されたルール([図表4]左)に従い、67歳以下(厳密には67歳到達年度まで)は賃金上昇率の+2.2%、68歳以上(厳密には68歳到達年度から)は賃金上昇率(+2.2%)と物価上昇率(+2.6%)のうち低い方である+2.2%となり、67歳以下も68歳以上も同じ値となる([図表3]上段の④の列)。

 

[図表4]年金額改定ルールの概略

 

(2) 調整率(マクロ経済スライド):2022年度の加入者減と長寿化対応分の影響で-0.3%

次に、年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を確認する([図表3]の下段の2024年度の行)。当年度分の調整率は、公的年金加入者数の変動率から高齢世代の余命の伸びを勘案した率(0.3%)を差し引いた(厳密には掛け合わせた)率となっている。

 

公的年金加入者数の変動率([図表3]下段の⑤の列)は、4年度前(2021年度)は-0.3%(推計した実績)、3年度前(2022年度)は0.0%(推計した実績)、2年度前(2023年度)が前述した+0.2%(仮定)であるため、3年度の平均は0.0%となる。

 

ここから、長寿化に対応するために高齢世代の余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を差し引いた-0.3%が、2025年度の当年度分の調整率となる。前年度からの繰越分([図表3]下段の⑦の列)は、67歳以下と68歳以上の双方でゼロ%であるため、当年度分の-0.3%が2024年度に適用すべき調整率となる。前年度からの繰越分(図表3下段の⑦の列)は、67歳以下と68歳以上の双方でゼロ%であるため、当年度分の-0.3%が2024年度に適用すべき調整率となる。