地方分権改革は、この四半世紀で大きな制度改正が進められてきた。自治体の権限拡大が図られた一方、新たな課題や限界も浮き彫りにしている。本稿では、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、地方分権改革の歩みとその課題について解説する。
分権から四半世紀、自治体は医療・介護の改正に対応できるか...財政難、人材不足で漂う疲弊感、人口減に伴う機能低下にも懸念 (写真はイメージです/PIXTA)

地方分権改革の四半世紀

1.地方分権一括法の制定

まず、2000年度に実施された地方分権改革を簡単に振り返ります。この時の改革では、国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に変えるとともに、国の事務の執行を自治体に委ねていた「機関委任事務」が廃止され、「法定受託事務」「自治事務」に類型化されました。

 

このうち、前者の典型例はパスポートの発給です。ここで、パスポートをお持ちの方は確認して下さい。発行者の名義は「外務大臣」になっていると思います。ただ、別に外務省の窓口に並んだ記憶はなく、最寄りの自治体で申請したと思います。これは法律に基づき、国が自治体にパスポートの発給事務を委ねているためです。

 

一方、法定受託事務以外の事務は自治事務になり、法令に違反しない限り、自治体が自由に判断できるようになりました。つまり、国の関与を限定し、自治体の裁量が拡大したわけです。


なお、この頃に筆者は駆け出しの記者として、自治体を取材しており、首長が「改革の旗手」と言われる人だったこともあり、「自治体が変わる」と強く期待していた記憶があります。

 

2.三位一体改革などの見直し

しかし、この時に税財政の見直しが宿題として残されました。自治体から見ると、いくら事務の裁量が広がっても、補助金などの形で国に財布を握られていると、自由に使途を決められません。しかも、国の補助金では様々な要件も定められるほか、「どこに予算を付けるか」という個所付けでは国の判断が入るため、自治体の裁量は小さくなります。

 

そこで、国と地方の税制を一体的に見直す「三位一体改革」が小泉純一郎政権期に議論されました。ここで言う「三位一体」とは、(1)国庫補助金の廃止・縮減、(2)これで浮いた国税を地方税に振り替えることで、自治体に税源を移譲、(3)上記を踏まえ、自治体の財源保障・財政調整の機能を持つ地方交付税の見直し――という3つの一体的な見直しを意味します。

 

しかし、(1)は補助金改革に反対する関係各省、(2)は税収を失うことを恐れる財務省、(3)は自治体への影響力低下を懸念する総務省の反発を招くことになるため、関係各省の対立が先鋭化しました。実際、この頃に筆者は補助金を所管する中央省庁をいくつか担当していたのですが、どこの役所も疑心暗鬼に陥り、有識者や記者を「あの人は〇〇省の回し者」などと色眼鏡で見る雰囲気が霞が関全体に広がっていたことを記憶しています。

 

それでも約4兆円規模の国庫補助金見直し、約3兆円の税源移譲が実現しました。一方、自治体に配分される地方交付税(赤字地方債と呼ばれる臨時財政対策債を含む)は約5兆円が削減される結果となり、自治体は厳しい財政運営を強いられました。これは当時、「地財ショック」と呼ばれ、自治体関係者に衝撃を与えるとともに、折しも進んでいた市町村合併を促す要因にもなりました。

 

その後も、自治事務を縛る法令を再検証する「義務付け・枠付け」の見直しが進められたほか、民主党政権期には国の補助金や出先機関廃止などを目指す「地域主権改革」(もう誰も覚えていないかもしれないですが…)が議論されました。現在も「地方分権」と冠した制度改正は細々と積み上げられており、最近では「計画策定を義務付ける規定が自治体の負担に繋がっている」という判断の下、この見直し論議が持ち上がりました1

 

一方、小泉政権から第1次安倍晋三政権期には、47都道府県を廃止して広域自治体を作る「道州制」の議論が少しだけ盛り上がりましたが、今や雲散霧消しています(こちらも覚えている人は少ないかもしれません)。このため、四半世紀に及ぶ分権論議は「国―都道府県―市町村」の三層構造を前提に、都道府県や市町村の権限や財源を強化する議論が展開されていることになります。

 


1 この時の議論については、2022年8月3日拙稿「自治体の行政計画について、国はどこまで関与すべきか」を参照。