
週に一度の「地獄の日」
「あれ、なんかわたし、全然楽しめてない」
異動3ヵ月でそう思い始めた最大の原因は、「強み」が封じられたこと。以前の部署では、一社一社に時間を割いて「量より質」の営業ができていました。けれど、異動先では「質より量」の営業方針で、プロジェクトの立ち上げには「まず短期間で大量に受注すること」が求められていたのです。そのため、商談アポイントをとる専属アシスタントが着任。優秀な彼らのおかげで、わたしが会議で忙殺されている間に商談予定が1ヵ月先までぎっしり。わたしはもう、ただロボットになってカレンダーに示された場所に向かうのみです。
今までのように一社を丁寧に調べ、何度も訪問してじっくりお話を聞く……なんて到底できず、「初めまして」で強引にガンガン営業しなければいけない状況でした。こんな毎日では、それまで「強み」として活かせていた「聞く力」も「共感力」も悲しいほどに機能しません。入社時に戻ったかのように見込み客に冷たくあしらわれる日々が続き、数字が思うように伸びず、どんどん気分が落ち込んでいきました。
・強く言ったり急かすのは好きじゃないけど、人にガンガン指示出し
・なにから考えればいいかわからないけど、「事業計画」とやらを立案
・算数でつまずいた頭脳の持ち主だけど、大量のデータをもとに数値分析
・エクセルなんて触ったことないけど、関数をググりまくって分析表作成
・何度エラーが出てもデータが吹っ飛んでも、毎週の会議までにプレゼン資料化
もはや業務に「苦手なこと」しかない日々に、頭の中はつねにパニック状態でした。
それでも、週に一度の「地獄の日」は容赦なくやってきます。毎週のプロジェクト会議では、リーダーのわたしから事業計画や進捗について経営陣にプレゼンをしなければなりません。怒涛の会議と商談の合間に数字と向き合い、ギリギリまで考え、なんとか徹夜で作った資料で必死にプレゼンするも、待っているのはずらりと並んだ経営陣の突き刺さるような厳しい目線とダメ出しの嵐。
「ここの数字、間違ってるよね?」
「そんな弱気な事業計画でゴーサイン出せると思う?」
「なにを考えてこの戦略なのか、まったく見えてこないけど?」
自分がまだまだ足りないことも、成長の機会なんだとも、頭ではわかっていました。でも、もうその場で泣かないように立っているだけで精一杯。
得意なことを封じられ、苦手なことで塗り固まってしまった今、なにかを楽しめる余裕も、自分を鼓舞するメンタルも、もうどこにもなくなっていました。