
営業成績ビリ。報われなかった新人時代
社会人1年目、ドキドキの入社初日。
緊張しながら「おはようございます」と挨拶をして執務室に入っていくと……、どこからか「営業なのに声ちいせえな」という声が聞こえました。ビクッと周囲を見渡しても、声の主が誰なのか、見当もつきません。思わぬ社会の洗礼に、心臓がきゅっと縮むような感覚。おそるおそる案内された席に着くなり、周りが続々と立ち上がり始めました。どうやら朝礼が始まったようです。
全員直立で前を向き、シーンとした重い空気の中、一人の社員が前に立ち、大声で叫び始めます。
「ご唱和ください! 〇〇株式会社社訓! ひとつ、我々の商売は~~~」その声に続くように、起立している社員全員が大きな声で社訓を復唱。この様子を眺めながら、「なんだかすごい場所に来たぞ……わたし、ここでやっていけるんだろうか……」と背筋が凍る思いで生唾を飲み込みました。
わたしの仕事は、すでにお付き合いのある酒屋さんやスーパーマーケットに、商品を買い続けてもらうこと。とにかく足を使ってガンガン取引先に訪問し、ノリ良く世間話を重ねたり、飲み会などの接待で信頼関係を築き、受注を増やす。いわゆる「ルート営業」「関係性営業」なんていわれるスタイルの仕事です。
朝の嫌な予感は的中し、社内はどうやら「泥臭く利益を追求せよ!」といったザ・体育会系のような雰囲気。その結果、声が小さく、誰にも明るく話しかけることができないわたしは、その雰囲気にすっかり圧倒されてしまいました。その結果、
・代表電話を受けたのに、肝心な取引先名を聞き忘れる
・「これ持ってきて」と先輩に頼まれたお酒とまったくの別物を運ぶ
・「勉強用に飲みなさい」と渡された、高価なお酒のビンをその場で割る
と、さっそく、周囲をがっかりさせてしまうほどの凡ミスを連発。
わたしは入社してものの数週間のうちに「ダメなやつ」認定されてしまったようで、最初は優しく話しかけてくれていた先輩社員が一人、また一人とわたしに話しかけなくなっていくのをうすうす感じていました。
入社3か月目には営業ノルマが課され始めますが、そんなどんくさ新入社員のわたしには「ノルマ達成」なんて夢のまた夢です。
1時間車を走らせて取引先に行っても「忙しいから後にして」と相手をされず、また別のお店では商品に関する質問にまったく答えられず「来なくていいよ」と冷たく吐き捨てられ、あげく初心者マークをつけて運転していた営業車を何度も電柱にこすって、上司に怒られては始末書を書いていました(運転すら絶望的に下手だったのです……)。
社内の営業成績ランキングは堂々のビリを記録。ノルマがついてから一度もその座を譲ることなく、ずっとわたしが最下位です。
「今日も売れなかったな……」ある日、しょんぼりしながら社内に帰ると、「なんでそんなに売れねえんだ? サボってんのか?」と、社長に机をガンガン蹴って怒鳴られてしまいました。