仕事に「依存」していませんか? 仕事熱心なのはもちろん素晴らしいことです。一方で過度な仕事への傾倒は、心身の健康を蝕む可能性があります。本稿では、土谷愛氏の著書『適職はどこにある?』(大和出版)より一部抜粋・再編集し、仕事と心の健康のバランスについて考えます。
メンタル疾患の診断で休職…26歳・営業管理職の女性が限界を迎えるまで。週に一度やってくる「地獄の日」 (写真はイメージです/PIXTA)

ついに心が折れる音が…

心と身体の限界を迎えた朝ある日、ボロカスにやられた会議を終えデスクに戻ると、部下と鉢合わせ。久しぶりに部下の顔を見られてほっとしたのも束の間、いつも明るいムードメーカーだった彼女の表情があまりにも暗いことに、わたしはすぐに気がつきました。

 

そして声をかけた瞬間、彼女はせきを切ったようにポロポロと泣き出したのです。「私、愛さんと働くこのチームがすごく好きで、本当に頑張りたいんですけど……、でも、もう限界かもしれません……」涙と一緒に絞り出されたその言葉を聞いたとき、胸がぎゅっと締め付けられました。

 

慣れないプロジェクトで頑張っていたチームメンバーに、無茶な目標を押し付けてしまっていたことを、自分でも痛いほどよくわかっていたからです。きっと彼女だってもっと前からSOSを出したかったはずなのに、上司のわたしはずっとデスクにいないし、話せる時間なんて全然ない。誰にも相談できない状況で「もっと自立しなきゃ」と思いすぎて、しんどさをどんどん一人で背負い込んでいったのだと思います。

 

謝る部下の涙に、激しい後悔と猛烈な自己嫌悪がわたしを襲いました。わたしがもっとフォローしてあげられていたら。わたしにもっと能力があったら。わたしがもっと強かったら……。なんて今さらこんなこと言っても遅いのに。

 

せっかくわたしのチームに来てくれた素直で頑張り屋さんの優秀な部下を、こんなにも苦しませてしまっていた。少し前まで「仕事が楽しい」ってキラキラしてたのに。大切な部下をわたしの力不足のせいで潰してしまった。わたし、本当に最悪だ……。

 

そのとき確かに、ポキッ、と心が折れる音が聞こえた気がしました。

 

翌朝、目が覚めて起きあがろうとしても、自分の体がぴくりとも動きません。まるで自分の体じゃないみたいに、動かし方がわからなくなりました。なにこれ? 思うように力が入らない。わたし、どうしちゃったの? でも早く起きて会社に行かないと…………。

 

そう思った瞬間、目にじんわり涙があふれてきました。

 

「……わたしの体、壊れちゃったのかも」心のどこかで悟り、布団の中からなんとか枕元の携帯に手を伸ばし、上司に休むことを告げました。

 

そうしながらも「今日は大事な会議があったのに」「やばい、あの件の進捗止まっちゃう」「ああ、明日出社したらまた詰められるな……」なんて考えてばかりの自分。もはやどうしようもなく、仕事のことばかり考えている自分、仕事に依存している自分がいました。

 

午後、意を決して心療内科に行くと、医師に告げられたのはメンタル疾患の診断。26歳の秋。診察室でぐちゃぐちゃに泣き崩れながら診断書を受け取り、そのままわたしは休職することになったのです。

 

 

土谷 愛

mideal inc.

代表取締役社長