意図しない就職をした息子に対し、退職を促した母
50歳になるひとり息子、健太郎さんとふたり暮らしをしている伊藤幸子さん(仮名・85歳)。「愚かなことをしてきた」と後悔を口にしながら肩を落とします。
後悔の理由は、健太郎さんを甘やかしてしまったこと。
健太郎さんが2年の留年を経て大学を卒業したのは2000年のこと。就職氷河期のなかでも、特に就職の厳しかった時期です。大学を卒業しても仕事がない、いわゆる新卒無業者は12万1,083人と、前年から1.5万人ほど増加しました。そんななか健太郎さんは無事、就職。しかし採用は営業職で、希望した職種での就職は叶いませんでした。
【大卒者の就職率と新卒無業者数:1994年~2004年】
1994年: 70.0%
1995年: 66.0%
1996年: 63.0%
1997年: 66.0%
1998年: 68.0%
1999年: 55.8%
2000年: 63.3%
2001年: 60.0%
2002年: 63.0%
2003年: 63.0%
2004年: 70.0%
※出所:文部科学省『学校基本調査』
どちらかといえば内向的だという健太郎さん。営業職なんて務まるのか……幸子さんはそんな心配をしていたといいます。案の定、厳しい営業の世界。上司や先輩からは、毎日のように罵詈雑言を浴びせられる毎日だったとか。それでも厳しい時期に就職できたのだからと頑張っていた健太郎さんですが、就職から3年後、幸子さん自らが退職するよう促したといいます。
――毎日、どこか目がうつろで、「このままでは最悪なことが起きる」と思ったんです
母の勧めもあり、退職。健太郎さん、27歳のときでした。その後、健太郎さんは自宅の自身の部屋に引きこもるようになったといいます。
――心が疲れてしまったのだと思い、まずは休まないとと思って、まずは見守るようにしたんです