
限界が近づく
夜21時までの盛大なお説教が終わってしょんぼり残務をしていると、少し離れた席の先輩たちが「今月やばい! でも、アイツがいるから絶対ビリにはならないや」と笑っているのが聞こえてきた瞬間、鼻の奥がツンとなり、慌ててトイレへ。
「もう消えちゃいたい……」水を流す音でかき消したその声は、わたしの脳内にしっかりこびりつき、いつまでもぐるぐるまわっていました。
辞めるか、辞めないか…決まらない答え
そんなある日、わたしの心を完全に折る事件が起こります。
なんとか売れるようになりたくて、商談の同行をお願いした先輩の営業車を運転していたときのこと。渋滞にはまりかけ、「商談に遅れたらやばい」と焦ったわたしは、とうとう接触事故を起こしてしまったのです。それも、大混雑する東京・渋谷のど真ん中。周囲は大パニックです。幸い誰にもケガはありませんでしたが、営業車の車体は見事にボコボコで、助手席のドアがへこみすぎて開かない大惨事。
「やばい、どうしよう……」と大量の汗が噴き出して目の前が真っ白になり、ぼうぜんとしているわたしを見かねて、先輩が警察や保険会社の対応、会社への報告などをすべてやってくれました。自分で起こした事故なのに、わたしはその後始末さえできなかったのです。
「わたしって、会社にいるだけで迷惑かけちゃうんだな」
毎朝7時に出社し、21時まで馬車馬のように働いても、いっこうに売れないどころか、事故を起こして会社に迷惑をかけているこの現状が苦しくて、逃げ出したくて、ついに「もうこれ以上は頑張れないかもしれない……」と涙があふれてきました。
でも……、仮にこの会社を辞めて転職しても、同じような状況になるのでは? 転職するっていったって、なにかやりたいこともべつにないしな……。というかその前に、そもそも転職なんてできないんじゃない?
脳裏には、100社落ちで苦しんだ就活の恐怖がよみがえってきます。この会社でもっと頑張り続けるべきか、それともあきらめて転職活動をするべきか。これから一体どっちに向かうべきなのかわからず、一歩も動けなくなってしまった自分がそこにいました。