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「マクロ経済スライド」のメリット
2004年の改正より前は、おおまかに言えば、少子化や長寿化の進展にあわせて将来の保険料を引き上げて、給付水準を維持する仕組みだった。しかし、2004年改正では将来の企業や現役世代の負担を考慮して保険料(率)の引上げを2017年に停止し4、その代わりに給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取ることになった。この給付水準を引き下げる仕組みが年金財政健全化のための調整ルールであり、「マクロ経済スライド」と呼ばれるものである。この仕組みは年金財政が健全化するまで続くが、年金財政がいつ健全化するかは今後の人口や経済の状況によって変わる。
この仕組みでは、原則として、少子化によって保険料を支払う現役世代が減少した影響(すなわち年金財政の収入減の要因)と、長寿化によって年金を受給する高齢世代が増加する影響(すなわち年金財政の支出増の要因)にあわせて、年金額の改定率が調整される([図表4]の原則)。収入減の要因と支出増の要因を毎年度の年金額改定、すなわち単価の見直しの中で吸収する形になるため、年金財政の健全化に寄与する5([図表5])。
4 厚生年金の保険料率は18.3%で固定された。国民年金の保険料(額)は2017年度に実質的な引き上げが停止され、以降は賃金上昇率に応じた改定のみが行われている。この改定は、厚生年金において保険料率が固定されても賃金の変動に応じて保険料の金額が変動することに相当する、と言える。
5 加えて、この仕組みには世代間の不公平を改善する効果もある。改正前の仕組みでは将来の保険料を引き上げて年金財政を健全化するため、既に保険料を払い終わった受給者には追加負担がなく、将来世代に負担が集中する。しかし改正後の仕組みでは、現在の受給者も年金額の実質的な目減りという形で少子化や長寿化の影響を負担する。これにより、改正前と比べて世代間の不公平が縮小する。

