年収798万円以上の会社員を対象に、厚生年金保険料の引き上げが検討されています。これは、年金制度を維持するための苦肉の策といえますが、対象者からは不満の声も上がっています。本記事では、今回の年金改革における保険料引き上げの背景と影響、そして年金制度全体の課題について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
「高所得層」月収70万円の53歳サラリーマン、年収798万円以上の会社員の厚生年金保険料増額に激しい憤り…厚労省の年金改革がもたらす「暗すぎる日本の将来」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

年収798万円以上の厚生年金保険料、月額9,000円増額へ

2025年の年金改革では、働く高齢者の厚生年金を減額する「在職老齢年金」について、2026年4月に減額の基準額を現在の月50万円から月62万円に引き上げる見通しです。そして、Aさんが激怒したように、年収798万円以上(賞与を除く)の会社員らが支払う厚生年金の保険料を2027年9月から増額する方向です。定年後は年金の減額を気にせずに働きやすくなる人が増えますが、保険料負担が大きくなる人も増えることになりますね。

 

現在、厚生年金保険料の計算で用いられる標準報酬月額の上限は65万円となっていますが、この上限額に該当する人は全体の6.5%(278万人)です。なお、健康保険での標準報酬月額の上限は139万円となっています。
 

出所:※厚生労働省「標準報酬月額の上限について」(2024年11月25日)より引用※4
[図表4]標準報酬月額別の被保険者数分布割合(男女計) 出所:※厚生労働省「標準報酬月額の上限について」(2024年11月25日)より引用※4

 

この上限額を引き上げることで、厚生年金保険料の徴収額は大きくなります。厚生労働省は標準報酬月額の上限見直しについて、以下のようにいくつかの案を提出しています。
 

出所:厚生労働省「標準報酬月額の上限について」(2024年11月25日)より引用
[図表5]標準報酬月額の上限見直し(案) 出所:厚生労働省「標準報酬月額の上限について」(2024年11月25日)より引用※4

 

標準報酬月額の上限が変わることで、毎月の本人負担分は増えますが、将来の厚生年金の給付額も次のように増えることになります。とはいえ、あくまでも現在での試算ですから、今後の日本の状況の変化や5年ごとの財政検証の結果により年金制度や受給額は変わっていきます。

 

皆さんは「日本の年金制度」について、どのように考えますか?

 

ちなみに…標準報酬月額上限の引き上げによる負担増と給付増(10年負担の場合)

・標準報酬月額 75万円の場合

→毎月の保険料負担9,000円増、老齢厚生年金額 年額6万1,000万円(月額約5,000円)増

 

・標準報酬月額 83万円の場合

→毎月の保険料負担1万6,000円増、老齢厚生年金額 年額11万円(月額約9,000円)増

 

・標準報酬月額 98万円の場合
→毎月の保険料負担3万円増、老齢厚生年金額 年額20万1,000円(月額約1万6,000円)増

 

〈参考〉

※1 日本年金機構「マクロ経済スライド」

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/kyotsu/kaitei/20150401-02.html

 

※2 令和6(2024)年財政検証結果の概要「所得代替率及びモデル年金の将来見通し」

https://www.mhlw.go.jp/content/001270476.pdf

 

※3 厚生労働省 年金局「次期年金制度改正について」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/dai20/01_siryou1.pdf

 

※4 厚生労働省「標準報酬月額の上限について」(2024年11月25日)

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337885.pdf

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表