60代。サラリーマン生活を終え、ゆっくり老後を……と考えていても、思わぬところで新たな出費が発生してしまうといったケースも十分に起こりうることでしょう。急な出費には働いて賄うしか選択肢がないという人も少なくありません。本記事ではAさんの事例とともに、60歳以降の継続雇用についてFP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
ローン完済・月収50万円の59歳父「贅沢せずにのんびり老後を」リタイア宣言も、前言撤回「死ぬまで働かなければ」…原因は〈実家制圧・出戻り21歳肝っ玉娘〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

2025年4月「高年齢者雇用安定法」改正…60代の働き方はどうなる?

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、65歳までの雇用確保のため、

 

・定年制の廃止

・65歳までの定年の引き上げ

・65歳までの継続雇用制度(雇用延長・再雇用制度)の導入

 

上記いずれかの実施が、2025年4月以降義務化されます。しかし、これらは従業員側にとっては「65歳まで働く機会が与えられる」だけで、「60歳定年制のまま従業員本人の希望があった場合のみ65歳まで再雇用などで雇用が継続できる」といったケースを採用する企業は多いようです。

 

図表1をみると、雇用確保措置を実施済みの企業の内訳は、全企業で、

 

・定年制の廃止 3.9%

・定年の引き上げ 26.9%

・継続雇用制度の導入 69.2%

 

となっています。

 

[図表1]雇用確保措置の内訳

 

なお、定年を60歳とする企業は66.4%、65歳とする企業は23.5%となっています。

かわいい初孫のために「リタイア辞めた!」宣言のAさん

まもなく60歳で定年退職を迎えるAさんは、月収約50万円の会社員です。57歳の専業主婦の妻と、住宅ローンを完済した一戸建てで二人暮らしをしていました。勤める会社には「再雇用制度」がありましたが、定年退職後は「贅沢しなければ問題ないだろう」と、継続雇用は断ってゆっくりと老後を楽しむつもりでした。

 

しかしそんなAさんのもとへ、昨年嫁に出したばかりの21歳の一人娘が戻ってきてしまいました。しかも娘は妊娠中。理由ははっきり言わないのですが、一人娘でわがままに育ってしまったことと気も強いため、いくら諭しても頑として嫁ぎ先に戻る様子はありません。ソファにでんとして横たわり、そこから一歩も動かず時折流し目でAさんたちの様子を伺っています。

 

結婚のときも「若すぎる!」と反対した両親を押し切って出て行った娘ですが、さすがに戻ってくるのは考えものです。娘の結婚した相手は、高校時代に知り合った同い年で、現在は派遣で働いています。もしこのまま離婚となった場合、娘の夫の収入は低く、養育費をちゃんと支払いつづけてくれるかどうかも疑問です。

 

しかし、いくらわがまま娘といえども産まれてくる子はAさんにとっては初孫です。このまま自宅に住むことになれば、ちゃんと面倒をみてあげたいと思っています。しかし、リタイアしてしまうと娘や孫にまで回すお金の余裕もないため、「死ぬまで働かなくては……」とのんびりとした老後は諦めます。Aさんは再雇用制度を利用していまの会社で継続して働くことに決めました。

 

「でもなぁ、うちの会社の再雇用制度は収入が半分になっちゃうんだよなぁ。若い奴らに気を使って働くのも嫌だしなぁ。モチベーションが上がらないんだよ」