日本経済新聞が全国536校の大学を対象に実施したアンケート調査によれば、2025年度以降の授業料引き上げについてすでに実施済み、もしくは検討中という大学が全体の4割に上ることが明らかになった。学費の上昇により家計への負担が増加し、奨学金の拡充が検討されている。しかし、返済に苦しむ若者の実態は依然として十分に認識されていない。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済問題の現状とその解決策についてアクティブアンドカンパニー代表の大野順也が解説する。
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社会的構造のねじれが生む奨学金への依存

奨学金制度は大学進学を希望する多くの人々にとって重要な支えである一方で、経済的・精神的負担が若者のキャリア形成を妨げている現状がある。この背景には、いくつかの社会的構造のねじれが存在している。

 

大学進学者数の増加

進学が一般化した結果、少子化が進むなかでも大学進学者数は減少していない。特に、Aさんのような地方の学生は地元には希望する学部や職場がなく、都市部の大学に進学する傾向が強い。

 

学費の上昇と所得の停滞

過去30年間で大学の学費は上昇を続ける一方、家計を支える平均年収はほぼ横ばいである。このギャップを埋めるため、多くの学生が奨学金に頼らざるを得ない状況が生まれている。

 

学歴への社会的期待と負担

現代の社会では、大卒であることが基本的な採用要件と見なされることが多い。このため、学歴が将来の選択肢に影響をおよぼすというプレッシャーから、無理をしてでも大学に進学する流れが生まれている。

 

奨学金返済がもたらす負担

奨学金の返済期間は平均15年におよび、その間の経済的ストレスは深刻である。生活費と返済額を捻出するだけで精一杯な状況が続き、貯蓄や将来への投資が困難になるケースが多い。高等教育の平等な機会を提供することは、日本経済の発展において重要である。しかし、進学のための費用とその後得られる収入のバランスが崩壊している現状では、奨学金返済問題を社会全体で捉えるべきではないだろうか。

社会全体で取り組むべき課題

奨学金返済の負担によって疲弊する若者を支えるには、返済期間中での支援が不可欠である。貸与した奨学金を返済できるような環境をつくり、それを次世代の学生の高等教育費に充てるというエコシステムを正常に循環させることが重要だ。

 

民間企業が従業員の奨学金を代理返済する制度を導入することも選択肢の1つである。こうした取り組みは、若者が経済的負担を軽減しながらキャリア形成に集中できる環境を作るだけでなく、企業自身にも若手優秀人材の確保というメリットをもたらす。奨学金制度を持続可能な形にするには、個々の努力に留まらず、社会全体で協力して取り組むことが欠かせない。奨学金を軸にした教育支援の新たな仕組みを創り上げることで、日本全体の競争力強化にもつながるだろう。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者