日本経済新聞が全国536校の大学を対象に実施したアンケート調査によれば、2025年度以降の授業料引き上げについてすでに実施済み、もしくは検討中という大学が全体の4割に上ることが明らかになった。学費の上昇により家計への負担が増加し、奨学金の拡充が検討されている。しかし、返済に苦しむ若者の実態は依然として十分に認識されていない。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済問題の現状とその解決策についてアクティブアンドカンパニー代表の大野順也が解説する。
夢を追った代償か…入社5年目、手取り19万円・20代映像制作会社勤務「月1万5,000円が苦しい」東京から故郷へ届かぬ悲鳴

地元を離れ、夢を追った代償

東北地方に住む高校生のAさんは、進路選択の際に「地元に残ってほしい」という親の意向と、東京に拠点を持つ大手の映像制作会社で働くという自分の夢を叶えるために進学したいという希望の狭間で葛藤していた。最終的に、仕送りをもらわずに約300万円の奨学金を借りることを選択し、東京の大学に進学した。

 

上京したAさんは、授業料や教材費、生活費を賄うため、希望する業界でのインターンを含む3つのアルバイトを掛け持ちしながら4年間を過ごしたという。こうした多忙な生活を送るなかでも学業を疎かにせず、高い競争率を勝ち抜いて、希望する業界への就職を実現した。

 

就職後、Aさんは「早く認められて活躍したい」という思いから、夜遅くまで残業し、先輩による厳しい指導にも耐えながら働いていた。しかし、入社から5年が経過しても給与が思うように上がらず、手取りにすると19万円。身体的な疲労が蓄積する上に、毎月1万5,000円という奨学金の返済が生活を圧迫し続けていた。

 

Aさんが就職した業界では、若手のうちは低賃金で働くことが一般的であり、Aさん自身も入社前からその点は理解していた。「学生のころから夢だった仕事なので、やってみたいという気持ちだけでここまできた。実際、やりがいはとても感じている。ただ、将来を考えると、貯金がまったくできず、生活費が毎月ギリギリなこの状況や、ただ目の前の仕事に必死で、今後のキャリアについても考えられない毎日にとても焦りを感じている。当然、いまさら親にも頼れない」と考えるようになった。

 

Aさんのような事例は、経済的な負担が若者のキャリア形成や生活基盤の安定に大きな影響を与えることを示している。「毎日を生きるのに精一杯」と感じる状況に陥ることで、自己成長の機会を犠牲にせざるを得ないケースも少なくない。現在Aさんは「もっと稼げて、将来的なキャリアが描ける会社に転職したほうがいいのではないか」と、転職活動をしている。