多くの企業で60歳を定年としていますが、「老後のお金の問題」から仕事を続ける人がほとんど。しかしお金の問題がクリアしたら悠々自適な生活が待っている――とはいえないのが現実のようです。
〈年収2,000万円超〉の60歳・勝ち組サラリーマン〈退職金4,000万円〉をもらって華麗に会社を去ったが…5年後、同期会で噂になった「定年エリートの悲惨な転落ぶり」 ※写真はイメージです/PIXTA

羨望の眼差しを送っていた同期のエリート…定年後のまさかの転落

山本哲也さん(仮名・65歳)。60歳で継続雇用制度を利用し、年金を受け取れるようになる65歳まで働き、先日、40年以上勤めた会社を退職したといいます。

 

60歳定年を前に、仕事を続けるかどうか、特に悩むこともなかったと山本さん。「無収入になるなんて、怖くてとてもじゃないけど無理。定年で辞められるのは、サラリーマンでも勝ち組だけですよ」といいます。実際、山本さんの会社でも、60歳定年後、ほとんどが継続雇用を希望。同い年で60歳で仕事を辞めたのは、知る限り1人だけだといいます。

 

――佐々木という同期は入社した時点で一目置かれるような存在で、すでにエースでした。定年前は本部長を務め、近々役員になるという話もありましたが、定年で会社を去りました。「もう十分だから」と。当時は羨ましくて仕方がありませんでした

 

定年後は地元である田舎に帰るといっていた佐々木さん。年収は2,000万円近くあり、定年退職金は月収の40ヵ月分の4,000万円を超えるだろうから、もう老後の心配はいらない。田舎に帰って、悠々自適に暮らすのだろう……そんな噂が広がっていたといいます。

 

――さすがに正確な金額はわかりませんが、本人から田舎に帰って農業でもすると聞いていました。ごみごみとした都会から離れてのんびり暮らす……そんな話に、当時は羨ましくて仕方がありませんでした

 

たびたび「当時は」という山本さん。その真意を聞くと、「悠々自適な老後、という話ではなかった」といいます。先日、65歳でほとんどの同期が会社を去ったのを機に、久々に同期メンバーで飲み会を開催。そこで佐々木さんの新たな噂話で持ちきりだったといいます。

 

実は佐々木さんが田舎に帰ったのは両親の介護のため。90歳近い父親・母親はともに寝たきり状態で、長男である佐々木さんは家族と離れ、単身、実家に戻ったというのが定年退職の真相でした。

 

ひとり介護するでも大変なのに、それが両親ともなると……その負担、相当なものであることは想像に難くないでしょう。「施設に入れたりとか、佐々木ならできたんじゃないのか?」と誰かが疑問を口にしましたが、「親を捨てるなんて親不孝もの!」と親戚から猛反対されたとか。「真面目な性格の佐々木のことだから、その言葉を真に受けたんじゃないか。両親の介護を一手に担っていたらしい」といいます。

 

すでに佐々木さんの両親は他界したらしく、介護負担からも解放……ただ話には続きがあり、実は重すぎる介護負担からか、佐々木さん、心の病を患ってしまったといいます。「結局、両親ともに介護施設に入り、佐々木も入院……最初から無理しなければ、こんなことにならなかったのに」と、同期のひとりがポツリとつぶやきます。入院はいまだに続き、佐々木さんの奥さんの疲弊も相当のものだとか。

 

これまで老老介護は、配偶者同士がほとんどを占めていましたが、長寿化に伴い、定年を迎えた子どもが高齢の親を介護するケースなど、多様化しているとされています。また厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の要介護高齢者がいる世帯のうち、実に63.5%が主な介護者も65歳以上の老老介護であることがわかりました。

 

定年を迎えたら、年金を受け取るようになったら、悠々自適な生活を。そんな老後を実現するためには、お金の心配をクリアすればいい……どうやら、そんな単純な話だけではなさそうです。

 

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[参考資料]

総務省『労働力調査』

公益財団法人生命保険文化センター『「生活保障に関する調査 2022年度』』

厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』