就職に失敗した氷河期世代の男性。自信喪失で引きこもりに
甘やかしてしまったといっても、年齢を考えれば、もう子どもは立派な大人。いまさら悔やんだところで、と思うかもしれませんが、和子さんの後悔は現在進行中です。
――息子が自宅に引きこもったまま、かれこれ、20年以上経ちます
大学生だった大輔さん。ちょうど就職氷河期で、大輔さんも思ったような結果が得られなかったといいます。そこで海外留学し、スキル・経験を得たうえで就職活動にチャレンジすることを思いついたとか。大学卒業後に2年間の海外留学。そして万全を期して就職活動に臨みましたが、就職を取り巻く環境はさらに悪化。「海外留学の経験があります」のアピールはまったく効かず、結果は全敗。
――自分を認めてくれない世の中で、生きていく自信がない
人生初めての大きな挫折。自信を喪失した大輔さんは、以来、自室に引きこもるようになったといいます。
――亡くなった夫も私も、どう接したらいいかわからず。引きこもりになってしまうのは心の病気かなと思って、知り合いのクリニックの先生に相談したら「無理やり外に連れ出そうとしてはダメ」といわれ、ただ見守ることにしたんです。そしたら20年以上経っていました
――甘やかして育てたから……困難を乗り越える力がなかったのでしょうね
現在、亡夫の遺族年金合わせて、月15万円ほどの年金が母子の生活費。しかし和子さんはもう87歳。いつ、何があっても不思議ではない年齢です。大輔さんが生きていくだけの貯金もありません。今住んでいる家を売ることができれば何とかなるかもしれませんが、今売ってしまえば住むところがなくなる……。手詰まりな状態で何もできない状態が続いているといいます。
一方、そんな状況については大輔さんも自覚しています。和子さんに万一のことがあったら、年金受給は一切なくなります。生活ができなくなることは火を見るより明らかです。
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、引きこもり状態にある40~69歳は全体の2.02%としており、数で表すと146万人ほどだと推計されます。また20年以上の引きこもり状態にある人は6.6%*であることから考えると、大輔さんと同じような状況にあるのは10万人弱にのぼると考えられます。
*20~25年未満が2.0%、25~30年未満が1.6%、30年以上が3.0%
また現在の引きこもり状態になった理由として「就職活動がうまくいかなかった」と回答したのは、全体の2.5%。数にして、全国に3.6万人ほどいるといえるでしょう。
しかし、引きこもりはやがて強制終了となります。ある日の朝のこと、いつまでも起きてこない和子さん。朝食を待っていた大輔さんが寝室をのぞいてみると、布団のうえで倒れている和子さんを発見したそうです。救急搬送されたものの間に合わなかったといいます。
――母の年金が頼りでした。働いたことなど一度もないのに、いまさら働けだなんて
――これから先、どう生きていけばいいのか
引きこもり脱出からの第一歩。いまのところ、踏み出すに至ってはいないようです。
[参考資料]