飲食代をすべて交際費と考える必要はない
前回ご紹介した出版社の社長さんの話に戻ります。ここまで考えてくると、どうも社長さんが手にしていたホテルの領収書は「交際費」ではないように思えてきます。
社長さんは「会議費かも」と考えました。 会議費という科目は、社外の会議室を借りた場合の費用ですが、その場合、1人当たり5000円までの飲食費がA出版社の社内規定で認められていました。しかし、当座談会は書籍に収録するためのもので、「会議」ではありません。また、明細を見てみると明らかに1人当たり5000円の枠も超えていました。4万円のうち約3万円が飲食費で、それを参加者5人で割ると6000円以上です。
「交際費でもないし、会議費でもないとすると、じゃあ、これはどんな科目で落とせるのだろう」――社長さんは、こう考えながら領収書をじっと見ていたわけです。
結論からいうと、これは「製作経費」として計上できる金額です。形の上では「会議」に似ていて、少し「交際費」に重なる意味合いもありますが、座談会の内容がきちんと記録に残され、それが数カ月後には書籍という商品の一部になるわけですから、これは該当する書籍の制作費です。
参加者には飲食代とは別に「謝礼」を支払っていますが、これも製作経費として別に計上できます。書き方としては「取材費」だったり「謝礼」だったりしますが、いずれにしても特定の本の制作費なのです。
制作費の場合は、はっきりいって、本当に製作に直接関連するものであれば青天井です。ただ、経費を使いすぎれば当然、その「商品」が原価割れになります。単独の商品、ここでは特定の一冊の書籍ですが、この本の利益を出したい場合は「製作経費」を節約する必要がありますが、税務上、制作費というのはいくら使おうが「青天井」なのです。
製作経費にも当然「けじめ」が必要に
交際費については後述しますが、損金算入できる金額に上限があり、もちろん会議費も同様です。 特に出版社、テレビ局など、書籍や番組に直接関連する「飲食」を交際費や会議費で落とせないとしたら、ほとんどの飲食代は課税されてしまうことになります。
A出版のS社長は、担当編集者に「おーい、この前の座談会、製作経費で落とすけれど、今度はもうちょっと安いところでやれよ!写真集が赤字になっちまうぞ」と声をかけて、伝票にハンコを押しました。
必ずしも「飲食代」をすべて「交際費」と考える必要はないというわけです。
ただし、こうした座談会の場合でも、明らかに度をすぎた量のアルコール類、また座談会終了後の2次会飲食費、書籍が完成した後の「打ち上げ代」などが、すべて制作費とはいいかねます。どこまでは制作費か、どこまでが交際費が、あるいは仕事とはまったく関係のない飲食かなどについて、何らかの「けじめ」が必要になることはいうまでもありません。