高齢化の進展とともに増えている認知症患者。その家族の負担は、大きなものがあります。在宅で暮らしていくのに限界を感じたら、老人ホームへの入居も選択肢のひとつ。そんな老人ホームではドタバタも日常茶飯事のようです。
怖い、怖い、怖い…年金12万円「老人ホーム入居」の85歳母、深夜の電話口で聞こえる悲鳴。翌朝、駆けつけた家族が息を飲む「凄惨な光景」 (※写真はイメージです/PIXTA)

自宅から車で30分の老人ホームに入居した母…ある日、着信に気づいた娘は

自宅よりも施設に入ったほうがいいと判断し、施設に入ることになった洋子さん。入居したのは、家賃の前払いである入居一時金が150万円、毎月の利用額が15万円の老人ホーム。洋子さんの年金は月12万円ほどだったので、予算を少々超えるものだったといいますが、自宅からは車で30分ほどという距離感が決め手だったと長女の直美さん。

 

場所見知りが心配だったといいますが、さすが、スタッフは全員プロ。面会に訪れるたびに楽しそうにしている洋子さんをみては、「いい老人ホームが見つかってよかった」と安心していたとか。

 

しかし、ある日の夜、23時をまわり、そろそろ寝ようとしていた直美さん、着信に気づきます。それは母・洋子さんからでした。「なんだろう……」とかけなおすと、電話口のむこうから悲鳴が……。

 

――怖い、怖い、怖い

――イヤッ!

 

耳がキーンとなるほどの大声の洋子さん。「どうしたの、どうしたの」と尋ねても、同じことをいって、電話は切れてしまったといいます。

 

「夢でもみていたのかしら」と思ったものの、母の悲鳴が頭から離れず。たまたま翌日は仕事が休みだったため、朝一で老人ホームに車を走らせました。

 

車を駐車場にとめ、ホームのエントランスを抜けると、「おはようございます!」と挨拶をしてくれたスタッフをみて、直美さん、ギョッとします。

 

――だ、大丈夫ですか……

 

挨拶をしてくれたスタッフの顔や腕にはいくつもの絆創膏。それではカバーできないほどのひっかき傷がいくつもみられました。

 

――あっ、ビックリしますよね。昨夜、ちょっと元気な入居者さんがいて。

 

いろいろと話を聞くと、昨晩、叩く、蹴る、大声を出すなど、暴力・暴言がエスカレートした入居者がいたのだとか。先ほどのスタッフは、それで顔やら腕やらを引っかかれた……また母の洋子さんは、その騒動を聞いて、怖くなり、思わず直美さんに「助けて」と電話をした、という顛末でした。洋子さんは電話をしたことをすっかり忘れていましたが。

 

――生傷は日常茶飯事ですよ

 

と笑うスタッフ。さすがはプロ。直美さん、頭が下がる思いだったのと同時に、「こんなことがあって、やっていけるのかしら」と心配になったといいます。

 

そんな壮絶な老人ホーム・介護の現場。株式会社SOKKINが行った『介護士の職場調査』によると、「現在の職場に満足していますか?」の問いに、「満足している」が6割。また具体的に満足の理由を聞くと、最も多かったのが「利用者との関係」でした。一方で不満で最も多かったのが「年収」。「人間関係」「休日数」「人員数や配置」と続きました。私たちが感じる介護スタッフに対する苦労は、別のところにあるのです。

 

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