ある日、実家で1人暮らしをする高齢母からの着信。異変を感じ…
井上哲也さん(仮名・53歳)の母親、美代子さん(仮名・79歳)も、父親(美代子さんの夫)が亡くなって以来、実家でひとり暮らしをするようになって8年目になります。高齢の母のひとり暮らしには哲也さんも抵抗感があるものの、「今からほかのところで暮らすほうがしんどい」とどんなに同居を呼びかけても美代子さんは首を縦に振ることはないのだとか。
確かに哲也さんの自宅は、実家から車で3時間ほどの距離。美代子さんはまったく土地勘がありません。80代にして縁もゆかりもない場所で新生活というのは、現役世代の人たちが考えるよりもずっとハードルの高いことなのかもしれません。
――母さんの思いを尊重するしかないか
そう思っていた哲也さん。しかし、そこに事件が……ある日、美代子さんから着信。仕事で出ることができず、その日の夜に折り返し、電話を入れます。
電話に出た美代子さんは、ただ「悔しい、悔しい、悔しい」と繰り返します。何が悔しいのか尋ねるも、次第に美代子さんは涙声になっていき要領が得ません。仕方なく、その週末、車で実家に急行。最近は仕事が忙しく、帰省は半年以上ぶりでした。「母さん、おじゃまするよ」と玄関を開けようとしたとき、少々違和感を覚えたといいます。
――あれ実家の玄関って、こんなんだったけ? 母さん、リフォームでもした?
あたりを見渡すと外構もどこか変わった気がします。さらに家にはいると、台所やトイレなどの水回りも、半年前よりもキレイになっていました。
美代子さん、年金は月15万円ほどで、父が遺してくれた貯金も結構あります。経済的に余裕があることは、哲也さんも知っていました。高齢の母、より安心して住めるようにとリフォームするのはわかりますが、哲也さんの記憶では確か4年ほど前。段差をなくしたり、手すりをつけたり、扉をスライド式にしたりなど、全面バリアフリーのリフォームをしたはず。その際、屋根や外壁の修繕もしているはずです。家に手を加えるには、あまり時間が経っていません。