がんはお金がかかるという印象が強い病気、がんへの備えはがん保険と考える人は少なくないでしょう。一方で、がん保険に加入していなくても、健康保険証があれば誰でも申請することができる保障があることをご存じでしょうか。本記事では、フリーランスで働く水谷さん(仮名)の事例とともに、がんでかかるお金と、公的保障「高額療養費」について、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が解説します。
大部屋に8日間入院で“請求額50万円”…乳がん罹患の年収450万円・40歳女性「病院食に1回460円は高い…」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

無知の怖さ

千葉県船橋市在住、40歳の水谷香織さん(仮名)。水谷さんは半年ほど前に早期乳がんで入院し、手術を受けました。その際、入院費の自己負担として約50万円を出費し、がんはお金がかかる病気であること、がん保険の必要性を実感しました。

 

ところが最近FPに資産運用の相談をしたところ、以前負担した入院費用について多額のキャッシュバックが受けられることを教えられて安堵するとともに、知識がないことの怖さを実感しました。

 

50万円の入院費自己負担で感じた「がん保険先送り」の後悔

水谷さんは現在フリーランスのWebデザイナーとして働いていて、年収は約450万円、貯蓄は約350万円。住まいはマンションの購入も考えていますが、会社員に比べ安定度の低いフリーランスという立場から、なかなか考えがまとまらず、いまのところ賃貸マンション暮らしです。倹約家であまり浪費などはせず、家賃を含まない月々の生活費は6万円~8万円程度であるため、貯蓄は十分にできています。

 

40代になり、今年から乳がん検診を受けるようになったのですが、初めて受けた検診でまさかの乳がんが発覚。幸い、がんは早期段階で、1週間程度の入院・手術できれいに取り除くことができるとの見立てで、主治医の勧めに従い、水谷さんは手術を受けました。

 

がん検診を考え出したころ、がん保険の加入も検討していたのですが、日々の仕事に忙殺され、先送りにしてしまったことを後悔しました。

 

予定どおり8日間の入院・手術でがんを取りきることができ、幸いほかへの転移は確認されず、その点は安堵した水谷さん。ただ、入院費自己負担額は約50万円。内訳をみてみると、「治療費、入院基本料、食事代」などが記載されていました。

 

「治療費、入院基本料はしょうがないか。……食事代が1食460円!? 食べられない日もあったし、病院食って美味しくないし、量も少ないし割高に感じる。ちょっとでも削れればいいのに……」と思わずぼやきました。懐が寂しくなると、さまざまなことが気になってしまうようで、水谷さんは悲しい気持ちになりました。

 

ちなみにですが、病院食は病院にもよりますが、たとえばおかず1品とっても、〇℃以上、〇分以内に〇度まで温度を下げるなど、細かい規定があります。手袋着用はもちろんですが、それが使い捨てであることや、手を洗う頻度も家庭の基準より大幅に多いこと、管理栄養士が患者1人ひとりに合わせた食事を考えて提供されていることなど、さまざまなコストがかかっていることを考慮すると、1食460円が高いとはいえないかもしれません。

※健康保険法施行令の改正により、2024年6月1日からの一般の方の入院時食費は1食490円に引き上げられました。

 

そして、治療とその後の療養期間は仕事を休んだため、本来であれば稼げたはずのその月の収入40万円が貯蓄から消えることとなり、あらためてがん保険の必要性を感じました。