国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、年収1,000万円超の人の割合は全体の6%程度。残りの94%の人からみれば、羨ましい限りですが、そんな高収入の人であっても、老後の不安はつきないようで……。本記事では近藤さん(仮名)の事例とともに、バブル前の日本を知る世代へのマネープランにおける注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
「贅沢していないのに…」年収1,000万円の55歳・大手企業部長でも…老後資金が一向に作れず、不安で息つく暇もない理由【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

20年前にはわからなかったが…

近藤さんは、20年前にファイナンシャル・プランナーの資格を持った知人と雑談をしていたときにある指摘をされていました。

 

近藤さんが教育費を学資保険だけで準備していたことに対して、その知人は「学資保険だけでは、学費で苦労するかもしれないから、しっかりお金の価値を考えた準備をしたほうがいいよ」と言っていたのです。

 

そのときは、子どもたちも小さく、支出が少なかったことや収入が増えていくことを前提に考えていました。そのため、なにか具体的なアドバイスももらったような気がしますが、軽く「そうだね」と返事をして、気にも留めていなかったそうです。今回、家計相談へ来る前に、「そういえば昔、お金の価値を考えるべきといわれたことがあった」と思い出されていました。

 

また、最近ではファイナンシャル・プランナーという言葉を耳にする機会が増えたのかもしれません。しかしその当時は、なにをする人かもわからず、どんな仕事か聞いても上の空で聞いていたそうです。いま考えると、きっかけがあったのだから、そのときに指摘されたことや将来のことについて、しっかり考えればよかったと後悔されていました。

 

役職定年と子の教育費の支出増のタイミングが重なって…

不安を感じたのは、次男が大学進学をしたころでした。長男が進学したときには、学資保険もおりて、学費やアパート代など長男の生活費を貯蓄から出していたそうですが、同じように次男にも必要になるのかと考えると不安となっていったそうです。さらに長女も私立大学へ進学となり、貯蓄があっという間になくなっていったということでした。

 

そこで、家のメンテナンスやリフォームもあり、貯蓄はほとんどゼロに。このころ、生活費は月に30万円程度だったそうですが、住宅ローンの返済があることや仕送りなどで、毎月トータルでは60万円程度の支出となっていました。50歳で部長職に就いた近藤さんは、55歳で役職退職となり、1,000万円あった収入も600万円程度となったようです。