学校を卒業して以来、40年近く、働き詰めの毎日。そんな会社員のひとつの区切りとなるのが定年です。セカンドライフ、どのように過ごしたいかと思い描いているなかで、都会を離れて田舎へ……と、憧れを現実にする人たちも。ただ夢の先にあるのは、甘い話だけではないようです。
市営団地に30年、「退職金3,000万円」「貯金4,000万円」の共働き夫婦、60歳定年後に念願の田舎暮らしを実現…年金月35万円で余裕の老後のはずが一転、突然の終焉を迎えたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

お金を全然使わない充実の「田舎暮らし」だったが、もうここでは暮らしていけない

田舎暮らしをスタートさせてから、コツコツとDIYで古民家を修復。二人が思い描いた住まいが完成したとか。

 

また65歳からは年金生活がスタート。夫婦の受取額は月35万円ほどだといいますが、「田舎だとお金を使っても月10万円ほど」だといい、まさに悠々自適な夢見た老後が実現したといいます。

 

――市営団地での暮らしにも愛着はありますが、住み替えて本当によかった

 

内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、高齢者に住み替えの意向を聞いたところ、「あり」「将来的に検討したい」が合わせて30.4%。特に賃貸住宅に住んでいる場合は、55.9%が「あり」「将来的に検討したい」と回答しています。

 

住み替えの意向を持つようになった理由としては、最多が「健康面・体力面で不安を感じるから」で24.8%。「自身の住宅が住みにくいと感じるから」18.9%に続き、里田さん夫婦のように「自然豊かな環境で暮らしたいから」が10.3%で続きます。

 

また住み替え先として、「実家がある」「(実家以外で)住んだことがある」となじみのある場所を志向する人は49.7%。まったくなじみのない場所を志向する人はかなりの少数派で4.9%でした。

 

理想的な老後。ただ里田夫婦の田舎暮らしは、急に終わりを迎えます。ある暑い夏の日、「草むしりをしてくる」と外に出たまま戻ってこない浩二さんを心配し、様子を見に行った由美子さん。そこで畑で倒れている浩二さんを発見。熱中症で意識を失っていたのです。命に別条はなかったものの、歩行障害が残ったといいます。

 

そうなると不便な田舎暮らし。「もう、ここでは暮らしていけない……」と、利便性を考え、定年前に住んでいた街へ転居。田舎暮らしはわずか7年ほどで終わりを迎えてしまったのです。

 

前出の白書に戻ると、「住み替え先で期待すること」として、最多は「買い物が便利であること」。ほか「医療・福祉が充実していること」「交通の便がいいこと」が圧倒的に支持されている要素です。老後は静かで自然豊かなところで……そんな憧れを抱く人は多いものの、実際に住み続けることは難しいことかもしれません。

 

[参考資料]

内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』

内閣府『令和6年版高齢社会白書』