日々報道される企業や公人の「不祥事」。不祥事発覚後は、SNSをはじめとしたネットでの言説が刻々と広がり、挽回が困難なケースが多いようです。このような事態が多く起こりがちなのは、日本の企業社会における「ある慣習」が要因となっている、とフリーランスでキャスターや社外役員などを行う木場弘子氏は言います。木場氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)より、詳しく見ていきましょう。
不祥事発覚後の謝罪会見の遅れが招く「さらなる批判」…想定できても止められない日本企業の〈悪い慣習〉【対話のプロが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

納得してもらえるプロセスを

最近は、企業の不祥事が発覚する例が後を絶ちませんね。こうした場合も同じように“プロセス”が大事だと強く感じます。起きてしまったことはそれとして、いかに早く火消しをし、事態を収束へと向けられるかは、その企業の「伝え方」に対する姿勢をはっきり示す正念場となるのではないでしょうか。

 

しかしながら、その正念場を上手に乗り越えられる企業の例はあまり見かけず、かえって事態を悪化させ、とめどない炎上からブランドの毀損、さらには崩壊へと至るケースが目立つように感じます。

 

不祥事や事故が発覚・発生した際、何はともあれ記者会見を開いて、できるだけ早く「謝罪」をすべきでしょう。謝罪会見というのは、裁判の弁論のように身の潔白を主張するというよりは、社会(世間)に対して誠意ある行動・態度を示し、いち早い事態の収拾に努めている、という姿勢を知ってもらうことが最大の目的だからです。

 

今や、ネットでの言説は刻々と広がっていきますので、この初動段階で後れを取ると、挽回は容易ではありません。責任者には「すぐに謝罪せよ」との要求が怒濤のように押し寄せてきます。そうした圧倒的な声の前にためらいは禁物です。たとえ、自分たちに何らかの言い分があるにせよ、それを釈明することよりも、まずお騒がせしたことへの「謝罪」の意思を示すのが第一です。

 

こうした場合、大半の企業側はしばしば「結論が出てからまとめて報告しようと思っていた」という決まり文句を使います。しかし、最初の謝罪が遅れれば遅れるほど、取引先や顧客、株主、さらには圧倒的な世間の声はイライラを募らせ、今度は不祥事自体に加えて、遅れていることへの怒りを膨らませていくことになります。

 

企業社会の「何か成果が出るまでは発表できない」という悪い慣習から、謝罪会見が遅れるというのは実にまずいやり方です。

 

では、はっきりしたことが不明の段階で、どんな会見を開くべきか?

 

この場合、特に気をつけることとしては、わかっていること、確認中であること、わからないこと(今後の展開等)を、明確に分けて伝えることです。会見の前に取り急ぎ資料でお知らせする方法(プレスリリース)もありますので、両方を上手く組み合わせることが大切だと思います。

 

特に、確認中のこと、わからないことについては、「現段階では調査中で、詳細はわかっておりません」とはっきり伝えることです。「わかっていない」ということも、れっきとした「情報」だからです。わからないことについて、推測や個人的な見解、また希望的観測などを絶対に口にしないということも重要です。そうした発言が、あたかも事実や確度の高い見通しのように報道されてしまうことがあるからです。

 

会見の際は、企業としての誠意を示すためにも、経営トップ自ら矢面に立つのが望ましいでしょう。ただ、その場合に「私は知らなかった」や「一部の不心得者がやったことだ」というような、責任逃れと取られる発言は絶対に禁物です。また、報道陣挑発的な質問が飛んだとして、不快な表情を浮かべることや、むきになっての抗弁もすべきではないでしょう。

 

企業にとって「剣が峰」とも言える危機管理広報は、長い目で見た場合、誠実と信頼を印象づける好機にもなるかもしれません。そのためにも、コミュニケーションの原点である相手の立場、ステークホルダーや世間に寄り添う対応が、最も重要になるといえるでしょう。

 

 

木場弘子

フリーキャスター