会議やスピーチ、転職活動における面接などで緊張してしまうことを悩みに感じている人も多いのではないでしょうか? フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)のなかで、木場氏は、その問題を解決する「ある真理」に気づいたことで、人前で話す仕事を続けられてきたといいます。今回は、緊張から解き放たれるために有効な方法について、詳しく解説します。
“理想の自分”を体現しようとするのが失敗のもと…人前で緊張せずにスピーチができるようになるための〈簡単で有効な方法〉

スマホを相手に、等身大の自分をチェック

初めての人を相手に緊張すること無く話すためには、まず今の自分を100%出すことを目指す――そうお話ししましたが、では肝心の「今の自分」は? と考えると、これが案外あやふやなことに驚くのではないでしょうか。

 

自分自身を頭に思い浮かべる時、私たちは「こうありたい」という願望に引っ張られがちです。そのため、自らのイメージは多少なりとも美化され、等身大の今の自分を客観的に把握するというのは、意外に簡単ではありません。

 

私もアナウンサーを目指して就活をしていた頃、各社の現役のアナウンサーさんが講師になってのセミナーに参加する機会がありました。授業の一環で、録画された自分の顔を見て衝撃を受けたことを思い出します。普段、鏡などで知り尽くしているはずの顔なのに、「私って、こんなに目が小さいの?」「エラが張ってるの?」など、テレビのカメラを通じて映し出された自分の顔に衝撃を受けました。つくづく人は自分が好きではない箇所を外して、見たい箇所しか見ていないということに気づかされ、以後はメイクの際にもしっかり気を遣うようになりました。

 

自分で自分に気づかないと言えば、話し方に直接関わる声そのものもその典型かもしれません。聞き慣れた自分の声というのは、頭蓋骨の中をじかに響いてくるために、空気中を伝わって相手が知覚する声とは随分違うものです。実際、録音や録画をした自分の声に、違和感を覚えた経験はどなたにもあるでしょう。

 

そこで、等身大の自分の話し方を把握するためにも、お勧めなのがスマホを使った“自撮り”トレーニングです。かつては、自分の声を録音して聴くにもテープレコーダーなどを用意しなければならず、簡単ではありませんでしたが、今やスマホでいつでも手軽に動画が撮れる時代。自分が話しているところを撮って、確認してみれば、自分の声質や高低などのトーン、話すスピード、音量を知ることができるでしょう。

 

その場合、録画された自分をチェックする時は、あくまで聴く側に徹することが大切で、「声が低い、早口で聞き取りにくい、もっと大きな声で」などと客観的に評価するようにして下さい。できれば、ちょっとした言葉の断片でなく、近々発表するプレゼンの内容や、面接の際の自己紹介などのまとまった内容を撮ってみると、声質などの他に、話す時の表情、話自体の順序やメリハリなどもチェックできるはずです。

 

その上で、今度はそれらの気になった点を意識して、もう一度、同じように録画してみる。それを何度も繰り返すことで、等身大の自分を把握しながら、少しずつ話し方のチューニングをできます。スマホばかりでなく、時には家族や同僚などに、面と向かって聴いてもらうと、冷静な耳での有益なアドバイスをもらえるでしょう。

 

この方法を用いてチェックすると、気になる口癖があることにも気づくはずです。一番多いのは、何かを話し出す前に「えー」や「あのー」と長く引っ張る癖です。これを言わないと調子が出ないわけです。たまにならいいですが、毎回必ずだととても気になります。練習によって無くしましょう。それから、人からの指摘に「でも」「いや」を連発すると、後ろ向きな印象を持たれかねないので気をつけたいですね。

 

最近多いのは、物事をはっきり言い切るのを避けるためか「~な感じ」や「~みたいな」と曖昧にぼかす人。それから、どこまでいってもマルを打たず、延々と「~ですけれども」「ですけれども」で文章が終わらない人。ビジネスでの改まった対話や何かを決める場面では短い文にして、明確に言い切るほうが断然いいでしょう。「~な感じ」には話の間口を広げ、周囲の共感を得ようとする配慮があるのかもしれませんが、こうした場面では自分の意思を明確にするほうが議論も深まり、印象に残るものです。

 

ただ、曖昧とは違う意味で“婉曲”な表現というのもあって、ミスを指摘する時や否定的なことを話す場合は、「~なのは残念です」や「~なのは勿体無いと思います」といった表現のほうが、相手も受け入れやすくなります。

 

何事も現状把握があった上で、課題が見つかるもの。スマホを使って話し方をチェックし、課題を見つけることから始めてみましょう。客観的に自分の「今」を確認するいい機会だと思って、ぜひトライしてみて下さい。

 

 

木場弘子

フリーキャスター