介護負担を抱える家族。介護する側/される側ともに、QOLを高めるためにも施設での生活を選択するケースは増えています。しかし「老人ホーム」に入ったら安心というわけにはいきません。想像もしなかった事態に直面することも珍しくはないようです。
私は捨てられたのでしょうか…年金17万円・77歳女性「老人ホーム」のカフェテリアでポツリ。仲の良かった家族が6ヵ月ぶりの面会でみた衝撃光景 (※写真はイメージです/PIXTA)

1ヵ月ぶりに家族と会える…「老人ホーム入所」の77歳女性だったが

株式会社Speee/ケアスル 介護『『入居を決めた理由は?介護施設の入居に関するアンケート』によると、入所を決めた理由で最も多かったのが「立地が良かったから」で52.5%。「スタッフや入居者の雰囲気が良かったから」39.6%、「医療体制・看護後体制が整っていたから」38.7%、「費用が安かったから」33.6%、「介護体制が手厚かったから」31.3%と続きます。

 

さらに「入所を決めた理由のなかで、最も決め手となったのは?」については、「費用が安かったから」が最も多く、24.0%。「立地が良かったから」21.7%、「スタッフや入居者の雰囲気が良かったから」18.4%、「医療体制・看護体制が整っていたから」17.5%とと続きます。

 

市内のなかでも高台に建つホームは、女性の要望通り、晴れていれば海まで見渡すことができます。

 

――でも、費用がね……ちょっとお高めじゃない、ここ

――良いところだけど高いわ、って伝えたら、足りない分は出すから安心してと

 

女性の年金は月16万円ほど。足りない分は貯蓄を取り崩すとしても想定していた予算よりも、5万円ほど高かったとか。その分は出してあげると、同居する長男家族が背中を押してくれたといいます。

 

こうして希望にあったホームに入所することができた女性。しかし入所から1ヵ月ほどたったある日、ホームにあるカフェテリアで、一人たたずむ女性。介護スタッフに話しかけられるとポツリ。

 

――私は捨てられたのでしょうか?

――介護が必要な年寄りなんて、邪魔だっただけでは?

 

この日、家族が面会に訪れる日だったそうですが、急遽、用事があったとかで、キャンセルになったのだとか。ホームに入所して1ヵ月。久々に家族に会えると楽しみにしていただけあり落胆は大きく、ネガティブに考えてしまっているようでした。

 

それから半年ほど経ったある日、77歳女性の家族が面会にやってきました。夫婦共働き、ふたり孫は部活&受験生で忙しく、親が仕事休みの土日もバタバタだとか。「おばあちゃんに会うの半年ぶり」「元気かな」と孫たちはうきうきしている様子。一方で親は笑顔ではありません。そこに車椅子を押してやってきた女性(祖母)。その姿は家族が知っている祖母ではありませんでした。

 

この半年の間に、すっかりと塞ぎこみ、必要最低限しか自室から出てくることがなくなった女性。外に出るよう、スタッフが促しても、まったく応じることはありませんでした。そして様子がおかしいことを心配して病院に行ったところ「うつ病」と診断。急遽、家族が駆けつけた、というのが真相です。

 

――私は捨てられた、捨てられたと、うわ言みたいに繰り返すようになって

――自室に引きこもりがちになっていたのは、前からご報告していた通りでして

 

説明するスタッフ。それを責めたりするつもりは家族にはありません。それよりも「老人ホームに入りさえすれば安心」と、忙しさを理由に面会に来なったことが悔やまれます。

 

内閣府『令和3年度高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、「自分は他の人たちから孤立していると感じることはあるか」の問いに対して、「高齢者向け住宅・施設に入居する高齢者」の62.5%は「ある」と回答。女性の場合、賑やかな3世代世帯で暮らしていたのが老人ホームに入所で環境が激変。孤独感は深く、うつ病発祥の引き金になったのかもしれません。

 

[参照]

株式会社LIFULL senior『介護施設入居に関する実態調査 2023年度』

株式会社Speee/ケアスル 介護『『入居を決めた理由は?介護施設の入居に関するアンケート』

内閣府『令和3年度高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』