長年添い遂げた夫婦もこの世を去るタイミングまで一緒、というわけにはいきません。多くの場合、どちらかが先に亡くなります。2人では十分であった年金も、1人遺されると決して十分な額とはいえないようで……。特に国民年金に加入する自営業者は注意が必要です。本記事では、Aさんの事例とともに自営業者の年金について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
2人では年金13万円だったが、75歳元自営業の夫の死により遺された妻が受け取る「ツラすぎる遺族年金額」…一転、40年前の「夫の英断」に感涙したワケ【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

お互いの万が一の際にも無理なく暮らすために…いまからできること

年金だけに頼らず、ある程度の準備は必要

前述の消費支出額と受取年金額から見ても、年金だけで十分な生活費を確保できる方は少ないでしょう。年金を受け取りながら、貯蓄の取り崩しや労働によって生活費を捻出することが求められます。現在から老後までの期間は、時間が経てば経つほど短くなります。つまり、準備が後ろ倒しになるほど貯蓄をするための期間は短くなっていくため、早めの準備が必要です。

 

国民年金加入者の方は他制度による準備も検討

自営業などの国民年金加入者は、サラリーマンなどの厚生年金加入者と比べると将来の受取年金に開きがあります。国民年金以外にも準備を行いましょう。具体的には掛け金を払うことによって国民年金に上乗せすることができる国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)、新NISAなどが代表的です。

 

年金が半分になっても、生活費が半分になると言うわけではない

Aさんの妻は、遺族基礎年金が受け取れないことで収入は7割となりました。しかし、1ヵ月の生活費は7割にまで下がったかというと、そうでもないと話します。生活をしていくなかで、食費や娯楽費など多少の変動はあるかもしれませんが、水道光熱費、通信費、新聞代などの固定費の影響は限定的であることが考えられます。

 

お互いの万が一の際を考えるときには、残されたパートナーのために余裕を持った資金計画を立てましょう。

 

準備に不安が残るようなら生命保険等の活用も

将来の万が一の状態への準備に不安があるようなら、生命保険の活用を検討しましょう。生命保険は比較的安価な保険料で大きな保障を得ることができるものもあります。一般的に年齢が進めは進むほど保険料は上がりますので、早めの検討が大切です。

 

夫に先立たれ、生活までもが傾きかけていたAさんでしたが、夫の残してくれた生命保険のおかげで助かったと言います。居酒屋を立ち上げる際に万が一のために、と加入したAさん受取人の生命保険。保険金額は2,000万円とありました。

 

「保険証券の保障額のところに、私の名前が鉛筆で書かれていました、それを見たとき、涙が止まりませんでした。なんだかんだいって、私のことを考えてくれていたんだなって。手紙なんて書いてもらったことは一度もなかったけど、最初で最後のラブレターのようでした。大事にとっておきたいけど主人からの気持ちをありがたく受け取りたいと思います」

 

保険の契約日は今から40年以上も前。40年越しの夫の気持ちが届いた瞬間でした。自分がこの世を去るタイミングはわからないからこそ、余裕を持った準備が求められます。

 

特にいまは人生100年時代。もしも早いうちにパートナーに先立たれてしまったら、残されたパートナーの生活は何年続くでしょうか。上記のポイントを参考に、大切な方と将来の話し合いのきっかけとなれば幸いです。

 

<参考>

日本年金機構:令和6年4月分からの年金額等について

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2024/202404/0401.html  

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表