定年後も働くことを考えている人は多いでしょう。働き方によっては、年金の受給額が変わることをご存じでしょうか? 在職老齢年金制度は、働き方次第で年金額が変動する仕組みです。本記事ではAさんの事例とともに、本制度の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
定年後は一瞬無職「社会から取り残されたよう」→ たまらず再就職の65歳元大手部長、ただならぬ努力で“年金月18万円と月収40万円”現役時代の収入キープも…厚労省に奪われた「働く意欲」【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

現役を退いたあとの葛藤 

65歳のAさんは、大手メーカーで人事部長を務めた女性です。部下数十人を統率する責任ある立場。忙しい日々ではあったものの、仕事に生きがいを感じ、なにより「自分の存在意義」を実感できる毎日を送っていました。 

 

しかし、定年退職の日が近づくにつれ、Aさんの心は複雑でした。 

 

「仕事のない生活なんて想像できない」 

「社会から取り残されるような気がする」

 

表向きは「第二の人生を楽しみます」と笑顔を見せていたものの、その心には漠然とした不安が広がっていました。 

 

退職後の数週間は旅行や趣味に時間を費やしてみましたが、どこか物足りなさを感じる日々。「このまま年金だけで暮らしていくのも悪くないけれど、もう少し自分の力を社会で発揮したい」そんな思いがふつふつと湧き上がり、再就職を考えるようになりました。 

再就職…65歳の新しい挑戦 

再就職先として選んだのは、以前取引のあった中小企業のコンサルタント職です。Aさんの経験や知識を求めていたその企業は、週4日勤務で月額40万円という条件を提示。「自分のペースで働けるし、年金と合わせて十分生活も豊かになる」と感じ、すぐに引き受けることにしました。 

 

新しい職場では、かつてのようなプレッシャーや多忙さはなく、自分のペースで働ける環境が整っていました。若手社員の育成や人事制度の改善に携わる仕事はやりがいがあり、「また自分が社会の一員として役立っている」と人生に充実感を取り戻しました。 

期待していた収入に喜びも、突然届いた「年金決定通知書・支給額変更通知書」 

Aさんは、再就職後の生活に大きな期待を寄せていました。毎月40万円の給与に加え、65歳以降に受け取れる予定だった老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計は月額18万円。合計58万円の収入はこれまでの努力の結果、退職前の生活とほぼ変わらないもので、旅行や趣味の費用にも余裕が生まれると思っていました。 

 

ところが仕事を始めて数ヵ月が過ぎたころ、日本年金機構から1通の封書が届きました。中には、「収入が基準を超過したため、老齢厚生年金を一部停止する」という旨の通知が入っていました。 

 

「どうして? こんな話、聞いていない!」Aさんは愕然としました。「再就職で得られる収入と年金を計算して、これがベストな働き方と思っていたのに」と、突然の通知に戸惑いを隠せません。