Iさんの3年後の様子
それから3年後、再びIさんが相談にやってきました。24歳となったIさんからは幼さが消え、少しやつれたようにも見えます。まだ同じ仕事をしているといいます。Iさんは驚くことを言います。
「いま、タワーマンションに住んでいるんです」
驚いたFPが詳しく事情を訊くと、住んでいるのはタワーマンションの賃貸物件であるようでした。家賃は35万円。Iさんが払っているわけではなく、Iさんの交際相手が部屋を借りて家賃も払ってくれているのだとか。その交際相手は店の客だった既婚男性。会社を経営していると自称していますが詳しいことはわからないといいます。
「管理会社は気づかないと思いますが、それは無断転貸という違反行為なんです。なにかがきっかけでバレたら訴えられることもありますよ」
FPがそう言ってもうわの空です。3年前からお金は貯まったのか質問すると、預貯金はほとんどゼロどころかキャッシングもしている状態。その返済もたびたび滞納し、その都度交際相手が払ってくれるとのこと。
コロナ禍によって稼げなくなったせいとIさんは説明をしますが、さまざまな男性にお金を奪われている状態なのがすぐわかりました。交際相手がお手当として毎月100万円ほどくれるそうですが、それもどこかに消えてしまいます。2,000万円近くもお金を稼ぎながら食べていくだけの生活、住まいはタワーマンションではあるものの空虚な気持ちは消えない。実家にも近寄りがたく、疎遠になったまま。
「これでもまだ結婚してタワーマンションに住む夢は叶うでしょうかね……」Iさんはいうのですが、「無理でしょう」とFP。「いまの仕事と生活環境、人間関係を変えて、リセットしてからでないと不可能だと思いますよ」今後について、
・大学に入りなおして就職をする
・両親と和解する
・遠方に引っ越し、いまの交友関係をすべて断つ
・貯蓄と資産運用の習慣をつける
タワーマンションを手に入れるためには最低限でもこれらのことをしないと無理そうです。しかしIさんは、「起業したい」「資産運用を覚えたい」「FIREしたい」などとどこかで聞きかじったようなカッコいい言葉を並べます。おそらく客から中途半端な知識を入れられているのでしょう。FIREもなにも、納税さえしていない現状でいうことではありません。
これでは大学生のころに嫌気がさした、周囲の学生と同じです。カッコいい言葉を並べて盛り上がっているだけです。
「起業を教えてください。社長になりたいです」Iさんは言います。
「あの、話を聞いていましたか……?」
タワーマンションを美化するわけではありませんが、手に入れる人には地に足のついたライフプランと資金計画が必要なのだと痛感しました。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表