安定した企業のサラリーマンや公務員は、老後資金対策として不動産投資の勧誘を受けることがよくあります。節税効果もあり、家賃収入を生み出す不動産投資ですが、セールストークのメリットばかりに目が眩むと痛い目に遭うことも……。本記事では宮崎さん(仮名)の事例とともに、中高年世代が始める不動産投資の注意点について、ニックFP事務所のCFP山田信彦氏が解説します。
年収800万円の中間層だが…50歳会社員〈ねんきん定期便記載の見込額〉に取り乱した結果の大惨事。「オレもこっちの立場になったか」と複雑心境【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

2年後「なんか変だな…」違和感の正体

宮崎さんが違和感を覚えたのは2年後に家賃の見直しについて業者から「近隣相場と比較して月5,000円の賃料値下げのお願い」との文書を受け取った時でした。最初の2年間ですら建物減価償却費による税金還付を加えてなんとか黒字になっていた程度ですから、家賃が下がると「マンション経営」はますます苦しくなります。

 

宮崎さんはリタイアメント後全般の資金計画も含めて、知り合いのFPにこのマンションについての意見を聞いてみることにしました。

FP「いい買物だったとはいえない」

「売買契約書」「住宅ローン契約書」「サブリースシステム契約書」に加えて「重要事項説明書」と宮崎さんが持参した書類すべてに目を通したあとでFPは解説を始めました。

 

「率直に申し上げてあまりいいお買物をされたとは思いませんね」FPによる指摘は以下のとおりでした。

 

1.金利上昇が起きると返済不能に!?

そもそも論として自宅住宅ローンもあと20年以上続くなかで投資用マンションのローンまで抱えた結果、個人資産のほとんどが現物不動産となる一方で、預貯金含めた金融資産残高がほとんどない状態であること。

 

→この状態でローン変動金利上昇等が起こると将来的な返済不能に陥るリスクが大きい。

 

2.割高で買わされてしまった

マンション価格は購入当初の管理費等を差し引いた毎年想定手取り家賃収入とローン返済額の差額が少しプラスかほぼ一致する計算で値付けられて、近隣の類似物件より高額であること。

 

→仮にいま売却するとしても、ローン残債より低い値段でしか売れない可能性が高い。

 

3.貸主に不利なサブリース契約

販売業者と長期間のサブリース契約を結んでしまったこと。

 

→借主である業者は借地借家法で守られており、家賃交渉や契約解除等が貸主にはとても不利となっており、結果、売却そのものが難しい物件となってしまっている。

 

インフレの世の中では一部資産を現物不動産化することに意味があります。しかしそのほぼ全額を変動金利ローンで資金調達すると家賃や物件価額が上がる以上に金利が上昇してしまうリスクが出てきます。その家賃ですら実質的に逃げられないサブリース契約という形で業者に生殺与奪権を握られてしまっていると、別途、管理費や修繕積立金が今後値上がりするのと同様のペースで上昇するかもわかりません。

 

また、自然災害などに遭い建物が損壊してしまうような場合、所有者居住のマンションと比較して団結力のない投資用マンション管理組合が機能して大規模修繕などに向き合える可能性は低いともいわれています。

 

さらには無事ローン完済をしたとしても、宮崎さんの場合でいうとすでに80歳で物件も築45年となっています。余程の立地で管理がしっかりしていない限り、「私的年金を生涯生み出してくれる資産」として存続していることができるかも疑問が残ります。

 

サブリース契約を含めての業者任せのマンション投資は「勝てない設計」になっているものが多く見受けられます。不動産投資は候補となる物件を自分の目で確かめて比較検討のうえで購入することはもちろんのこと、その後の賃貸管理も不動産会社を起用するにしても自らが空き室リスクを負って運営していく姿勢が必要です。