医療の発達などにより、平均寿命も伸びた現代では、しばしば健康寿命が話題に挙げられます。寝たきりにならずに健康的な老後を過ごすためには食事が肝心だと、医学者である家森幸男氏はいいます。家森氏の著書『80代現役医師夫婦の賢食術』(文藝春秋)より、健康な体を維持するために必要な栄養素について詳しくみていきましょう。
脳卒中や心筋梗塞のリスクを下げる効果も!…食の細い高齢者ほど摂取すべき、健康寿命を高める〈スーパー栄養素〉【80代の現役医師が助言】
寝たきりにならないために摂取したい栄養素
世界の長寿・短命地域を40年にわたり健診して回る中で、様々な方と食事をご一緒する機会にめぐまれました。その時に気づいたことがあります。
長寿地域の方々と一緒に食事をすると、みなさん、とてもよく食べられるのです。お年を召している方でも、食卓に出されたものを本当に喜んで完食される方が多い。ジョージアの長寿村や中国の広州などでも、テーブルいっぱいに乗ったお皿を囲んで、家族や友達とわいわい食事をする風景を何度も見てきました。
一方で、日本のご年配者は、一緒に食事をしても、食べ物を残される方が多い印象です。私は今、85歳ですが、私くらいの年齢になると、食が細くなってくる方が多いように思います。
また、三食作るのが面倒になって一日の食事回数が減ってしまったり、一品もののインスタント食品などで、簡単に済ませる方も多いのではないでしょうか。24時間いつでも食べ物が手に入る「飽食の日本」ではありますが、実は、高齢者の「低栄養」は大きな問題となっています。「低栄養」とは、エネルギーやたんぱく質が足りなくて、健康な体を維持できなくなる状態のこと。
令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査によると、65歳以上の方で、女性は5人に1人、男性は8人に1人が低栄養です。また、85歳以上の女性に限ると、全体の27.9%、実に3〜4人に1人が低栄養状態です。低栄養状態が続くと、身体の機能が低下し、身の回りのことをするのが難しくなり、筋肉がどんどん落ちて最終的に寝たきりの状態になりがちです。
2022年、100歳を超える方が日本で初めて9万人を突破したのは、非常に喜ばしいですが、一方でかなりの方が寝たきりなのはとても残念なことです。日本の平均寿命は男女平均で84歳ですが、健康寿命は男女平均で74歳。約10年間、寝たきりで過ごしている方も多いのです。
原因は、脳卒中や認知症、骨粗しょう症による骨折が多いのですが、その大きな鍵となるのが「たんぱく質」です。たんぱく質は、筋肉、臓器、血管など身体のすべての素もとであり、体内で作れないので食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」9種類と、体内で合成できる「非必須アミノ酸」11種類の計20種類から構成されています。