健康を維持するために、日常的に食べておきたい「重要な食材」があります。そのうちのひとつが「ヨーグルト」で、なかでも「カスピ海ヨーグルト」には、現代人にとって大事な成分が含まれている、とカスピ海ヨーグルトを初めて日本に持ち込んだ京大名誉教授の家森幸男氏はいいます。家森氏の著書『80代現役医師夫婦の賢食術』(文藝春秋)より、詳しくみていきましょう。
ヨーグルトの効果って?
健康寿命を左右する重要な食材に「塩(salt)、魚介類(seafood)、大豆(soy)」という3つのSがありますが、ここでは、4つ目の食材として、「ヨーグルト」を詳しく紹介したいと思います。
ヨーグルトなどの発酵した乳製品は世界の長寿国でよく摂られていますが、ヨーグルトには塩の害を打ち消してくれるカリウム、カルシウム、マグネシウムが多く含まれているのです。ですから、ヨーグルトは、伝統的な「和食」にはない食材ですが、塩分過多になりがちな日本人にこそ、必要とされている食品なのです。
私がヨーグルトの持つ素晴らしい効果に気づくきっかけとなったのは、1986年に、当時、世界の長寿地域として知られていたコーカサス地方ジョージアのオセチア地区の調査に訪れたことでした。
当時のオセチア地区は各家庭で牛を飼い、新鮮な牛乳で伝統的なヨーグルトを作っていました。ヨーグルトの種菌は代々その家に伝わるものを使い、各家庭で味が違います。それぞれの家庭が味に誇りを持ち、昔の日本でいうと「ぬか床」に近いイメージかもしれません。しぼりたての牛乳と種を弥生土器のような素焼きの壺に入れて常温で発酵させてヨーグルトを作るのですが、これも理にかなっています。
亜熱帯地域なのでそれなりに気温が高いのですが、素焼きの壺だと水がしみ出て蒸散熱が発散され、適度に中が冷えるのでしょう。
24時間尿の分析では、塩分摂取量は、1日14グラムと当時の日本の平均値よりも高いにもかかわらず、ナトカリ比(カリウムに対するナトリウムの比率)は低く、塩の害が打ち消されていました。これは、カリウムが多い野菜や果物、ヨーグルトを多量に摂っているためだろうと思われました。
そこで、コーカサス特有の「ヨーグルト」の秘密を知るべく、各ご家庭で作っているヨーグルトの種をいただいて、分析用に日本に持ち帰ったのです。
大発見のカスピ海ヨーグルト
持ち帰った種に牛乳を足して、日本でも同じように作ってみたところ、すごい勢いで増えていきます。あまりにも増えるので、知人にも分けたところ、酸味が少なくまろやかな味や、常温で増やせる手軽さ、お通じがよくなる効果などが評判を呼び、手渡しでどんどん広がっていきました。
予想をはるかに超えた広がり方に、私は「食中毒が起きたら大変だ」と心配になり、当時の兵庫県知事でのちにNPO「食の安全と健康ネットワーク」代表も務めた貝原俊民氏にお願いして、企業に呼びかけていただき、最終的に、凍結、乾燥させた安全な種菌を量産していただくことができるようになりました。
このヨーグルトは「カスピ海ヨーグルト」と呼ばれ、一大ブームとなりましたので、ご存じの方も多いと思います。ジョージア発祥のこの「カスピ海ヨーグルト」の最大の特色は、そのまろやかな味わいと、独特の「粘り気」にあります。
この独特の粘り気は、分析したところ、菌の特徴によるものでした。カスピ海ヨーグルトの菌は、こん棒状の桿菌ではなく、丸い球菌なのです。小さな球体がつながり表面積が大きくなるため、菌の表面で産生され粘り気の元となる「粘性多糖体」をたくさん作れるというわけです。
そして、実はヨーグルトの「粘り気」は、健康効果に大きな意味を持ちます。
動物実験で、粘り気の少ないヨーグルトと、粘り気の強いヨーグルトを食べさせて比較すると、粘り気の強いヨーグルトのほうが食後の血糖値の上昇がゆっくりしていることが分かっています。この「血糖値がゆっくり上がる」という効果が、現代人にとって非常に重要な意味を持ちます。