解剖学者の養老孟司氏によると、1990年代以降、世界中で虫の数が劇的に減っているそうです。この事象と、日本をはじめとした先進国が直面している「少子化問題」には、何らかの関係があるのでしょうか? 養老孟司氏と名越康文氏の共著『ニホンという病』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
虫が9割消えた理由は「わからない」
―地域や自然とのかかわりについてお伺いしたいと思います。
養老 人によるでしょう。僕が付き合っているのはアクティブな人が多いですね。なぜだか知らないけど、そういう人の方が気が合うんだね。
だいたい、虫が好きで集まっているヤツなんて、ほとんどが職業を別に持っていますからね。みんな仕事を辞めたがっている(笑)。虫だけやりてえと。しょうがないから(仕事を)やっていると、そういう人が多いんですね。若い人もいますよ。まあ、僕から見るとほとんどの人が若いですから。
もう2年ぐらい続いているかなあ。毎週1回、ZOOMで集まっているんですよ。
名越 週1ですか、なかなかアクティブですね。
養老 話がなくてもちゃんと集まるから。
名越 2時間ぐらいやっているんですか。
養老 そうです。木曜日の夜に。ZOOMは便利ですよ。
名越 バリバリのビジネスマンですね。ZOOM会議みたいな。
―何人ぐらい集まるんですか。
養老 10人ぐらい。出たり入ったりしてますよ。
名越 10回ぐらいやったら、ちゃんとした本になりますよ。
養老 デイヴ・グールソンという人がね、「サイレント・スプリング(沈黙の春)」(レイチェル・カーソン)に倣って「サイレント・アース」という本を書いたんだけど。それによると1990年代から現在までの間に、全世界で8割から9割、虫が減ったんですよ。
名越 そんなに減ったんですか。
養老 (種類ではなく)量です、これはね。場所は関係ないんですよ、データがあるところはどこでもですよ。冗談じゃないんです。
名越 いまでも、(絶対数は)動物の中では圧倒的ですよね?
養老 そりゃそうです。食物連鎖でいくとかなり下の方にいきますからね。鳥なんかかなり減っているんじゃないですか。ツバメなんて口あけて飛んでたって虫が入ってこなくなったんですよ。小鳥はだいたい、毛虫を捕っているんですからね。
名越 それは、やはり農薬とかの影響ですか。
養老 いや、理由は分からないんですよ。
名越 それでそんなに減るわけないですからね。知らなかったですね。僕はいまだに地球は虫の帝国だと思っていました。いま、世界の人口は約80億人ですよね。それがいきなり8億人になったみたいなことですね。
養老 はっきり数えられているケースがあります。オオカバマダラというアメリカのチョウですけどね、メキシコで冬を越して、春になると北上してシカゴあたりまで行って、秋に出たやつが一斉に集団で帰ってくるんですよ。アメリカのアマチュアが面白がって、メキシコの越冬地で数を数えたら、1989~90年、その時は200万頭。2019~20年では3万頭になっていた。木に止まってうんこするんで数えやすいんですよ。大きいチョウでね。
名越 昆虫のあらゆる種類にも影響が及んでいるんですか。
養老 僕も子どものころにこの辺で捕った虫を探しているんだけど、なかなか見つからないんだね。だから、昆虫食とかって言われるとね、冗談じゃないよ、食うほどいないよって。