解剖学者の養老孟司氏によると、1990年代以降、世界中で虫の数が劇的に減っているそうです。この事象と、日本をはじめとした先進国が直面している「少子化問題」には、何らかの関係があるのでしょうか? 養老孟司氏と名越康文氏の共著『ニホンという病』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
「少子化」の要因は“単純”ではない
―自然界で何が起きているのか、ちゃんと検証していかないと怖いですね。
養老 ここまで(環境問題を)無視すればね。そりゃあね。
―いつ人類に及んでもおかしくないですよね。
養老 もう及んでいますよ。それが少子化ですね。これも理由がハッキリ分かっているわけじゃない。ただ、なんとなく子どもがいないっていう状況になっている。
―メディアは社会的な要因を強調していますが、そんなに単純な話ではない。
名越 人間って、原因がこれだって言いたいんですね。とくに日本はその傾向が強い。ある種のエリート主義かな。そうじゃなくて、なぜか減っているんですといったら、もっとゾクッとするじゃないですか。この原因で、と言ったら、例えばじゃあ排気ガス出すなという、短絡過ぎてしょうもないことになって。コロナ禍で本当に参りましたね。この原因でとか。
養老 それで片付くような問題なら、問題になっていません。それで片付かないから問題が起こっているんですよ。
名越 安易に原因を言うなって思います。書いたらね、多くの人は信じてしまうんですよ。そこはですね、強権的に、安直に原因を書くなと。
養老 原因を書かなくても、原因があるんだよという形の書き方をしょっちゅうしますよね。要するに、異常な事件が起こるじゃないですか。そうすると、警察は動機を追及中と書く。動機を追及すれば分かりますよという暗黙の前提で成立しているけど、そりゃ嘘だ。異常な事件なんだから分かるわけないんですよ、普通の人には。そう書くべきなんですよ。
名越 それ大きいですよね。世界に対する認識のイメージが完全に狂ってしまうから、だから小説なんか衰退したんでしょうね。
今の小説は結論を書かないといけませんからね。でもそれだと法則や定理を書いておけばいいわけで、わざわざ長々と物語を書く必要もない。本来は矛盾していたり、理屈に合わないことを筆力で納得させたりするのが、小説や戯曲の醍醐味だと思うんですが。なんでも原因があるって、あの浅薄さが、僕らの生き方をものすごく陳腐にさせていますよね。
―そうやって自然界でどんどん異変が起きて、個を確立するうえでも、自然の中に入ってその厳しさを実感することが子どものころから必要ですね。
養老 今はあんまりやらせてないでしょ。だから、僕は学校を遊ぶところに変えろと言っているんですよ。山の中に造ってね、子どもが来たら外に放して、先生は見張ってりゃいい。どうしても教室で勉強するのがいいと言ったら、させてあげればいい(笑)。そんな子はいないと思うけど。その方がよっぽど健康な人が育ちますよ。
名越 早急にやってほしいですね。少子化が進んでいるからできますよね。